アナトール・カレツキー:債券市場がインフレの背中を押す

FTなどでコラムニストを務めたAnatole Kaletsky氏が、最近の米国債市場の動向を分析している。
米長期金利の落ち着きは、市場の脆弱性を悪化させかねないと示唆している。


「こうした金利の動きは、トランプの減税・保護主義・財政再建から積極的財政拡大への転換の前より、現在の債券投資家がインフレや経済の過熱を心配していないことを示唆している。」

カレツキー氏は、最近の長期・超長期の金利の落ち着きぶりをこう分析している。
景気が回復しているのに減税・財政支出拡大が打たれ、景気過熱・インフレ昂進が懸念されたのが1月末からの市場の動揺の一因だった。
しかし、債券市場を見る限り、その動揺はすっかり収まったかに見える。
先月末の米10年債利回りは2.7%程度まで低下している。
カレツキー氏は、この長期金利が足元の米経済から乖離していると指摘する。

「3%前後の長期金利は、FRBの2%物価目標+実質経済成長率2-3%(トランプ政権の大規模財政刺激策の前にも達成されそうだ)からは出てこない。」

長期金利が名目GDP成長率の反映だとの考えに立てば、長期金利は4-5%をうかがってもいいはずだ。
さらに、トランプ大統領が目指す4%成長の実現が視野に入ってくれば、長期金利は6%となるはずだ。
しかし、足元の長期金利は3%にも届かない。

米10年債利回り(青)と名目GDP成長率(赤)
米10年債利回り(青)と名目GDP成長率(赤)

カレツキー氏は、いつかこの等式が再び成り立つようになると予想する。

  • 債券市場が正しいなら、高い経済成長は一時的なものに終わる。
  • 成長予想が正しいなら、債券利回りは急騰する。

もちろん両方が起こることもあろう。
しかし、カレツキー氏によれば、今後1-2年の間にはいずれも起こらないのだという。
1-2年のうちに米経済が崩れる兆しはない。
では、経済が崩れないのに、どうして債券利回りは急騰しないのか。


「投資家が債券利回り上昇についての知的な説を受け入れたとしても、銀行・年金基金への規制、日欧の量的緩和、その他の形での金融抑圧によって、ファンダメンタルズの価値の合理的推定値よりはるかに高い価格での米国債需要の継続が確保される。」

さらに、カレツキー氏は債券市場に染みついた習性にも言及する。
30年超に及ぶ債券の強気相場(=利回り低下局面)が債券市場を「押し目買い」のパブロフの犬にしてしまったと言う。
債券が下がれば(=利回りが上がれば)債券市場がダラダラとよだれを垂らすのだ。
食欲に抗することができないパブロフの犬は、株安・債券安で債券を買い増し、債券高(=利回り低下)によって株式市場を安定化させるのだ。

このメカニズムが米政治の方向性に大きく作用するとカレツキー氏は予想する。

いつか債券市場のパブロフ的な振る舞いは終わり、長期金利ははるかに上昇するだろう。
しかし、それが起こるまで、低インフレが永遠に続く経済の現実であるとの投資家の揺るがない信念は、米政府がさらにインフレ的な政策を追求するのを許してしまう。

経済の現実はさらにインフレに向かうのに、債券市場はそれを織り込まない。
債券の泡は大きくならなくても、周りの気圧との乖離を拡大していく。
アラン・グリーンスパン元FRB議長を始めとして、多くの人が本当のバブルは債券市場だと指摘しているが、似たような感覚によるものだろう。
一方、リフレ派の急先鋒 ポール・クルーグマン教授は、債券バブルこそバブルだと主張している。


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