ロバート・シラー:意図的な景気後退

ロバート・シラー教授が珍しく関税とインフレについて質問を受けている。
米経済史の語り部は、誰も意識していない可能性を直接的な表現で指摘している。


「トランプ政権が本当に不用意に関税を導入してしまうのでなければ、経済へのインパクトの大きさという意味では、直接的なものより心理学的なものの方が大きいのではないか。」

トランプ大統領による鉄鋼・アルミへの関税がどれくらい米インフレに影響を及ぼすかとCNBCで尋ねられ、シラー教授は行動経済学者らしい答えをしている。
もちろん、常に最適化を追求してきたサプライ・チェーンが大きく変化を余儀なくされることは看過できない。
そうした影響を受けるところでは「経済危機」となるのかもしれないが、今のところは局所的な影響だ。
鉄鋼もアルミも輸入全体の金額から見れば一部にすぎないし、適用される対象国も限られている。
今のところは直接的なインパクトは小さい。
しかし、それでも人々の心理には大きな影響を与えるだろうという。
教授は大恐慌の時の貿易戦争を例に、保護主義の動きが人々の自信を砕き、将来の見通しを失わせると指摘した。

仮に米インフレが意図した以上に昂進してしまった場合FRBは対処できるのか。
シラー教授は、コスト・プッシュのインフレを抑え込むのは難しいと指摘する一方、前例は多いと話す。


インフレを抑え込むために、意図的に景気後退を生み出すんだ。

かつて米国では、インフレが景気後退より厄介だった時期があった。
今、米国ではデフレを心配する声よりインフレを心配する声の方が多く聴かれるようになった。
決してデフレの脅威が完全になくなったわけではないが、現時点ではインフレの方が喫緊の心配事なのだ。
シラー教授は、インフレが予想外に高まりFRBが金融引き締めにより景気をオーバーキルする可能性を否定していない。
しかし、そこには市場関係者だけでなくさまざまな思惑が絡み合うことになる。

トランプ大統領はそれを望むだろうか。
独立したFRBは(景気を)ぶち壊すのをためらうかもしれない。
『もっとインフレを引き上げろ、2%目標は低すぎる』と言う人も多い。

低インフレに慣れきった人たちからすれば、結論は《ありえない》ということになろう。
確かに2-3%のインフレであれば、意図して景気を殺す必要はない。
シラー教授の指摘も、1980年頃までの高インフレを念頭に置いたものだろう。
それだけに現時点でFRBが急激に金融を引き締める可能性は高くない。

さらに言えば、米金融政策にとって金融システムの安定の優先順位は高くない
つまり、消費者物価のインフレも資産インフレも、差し迫った危機感とはなっていない。
もしも、これがパウエルFRB議長にも当てはまるなら、先行きの金融政策と投資に意味することは自明だろう。


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