ビル・グロス:まだ冬眠から覚めたばかり

債券王ビル・グロス氏が月例書簡で拙速な金融引き締めを戒めている。
現状のFRBや市場の利上げ予想では、経済・市場をオーバーキルしかねないと言う。


「投資家は2018年の10年金利については3%前後と考えるべきだ。
この水準は独国債・英国債の利回りを引き上げるだろう: 独国債1%、英国債1.75%だ。
私の頭では、これは野獣ではなく、世界的な債券の冬眠ベア市場だ。」

グロス氏が従前どおり緩やかな金利上昇を予想している。
米債券利回りは2016年を底に上昇を始めている。
こうしたトレンド転換ではしばしば「大殺戮」と呼ばれるような急騰が起こる。
しかし、今回は違うとグロス氏は主張する。
人殺しをいとわぬ「野獣」いうより、冬眠していた熊が目覚めた程度だと言う。
熊は冬眠中、低インフレと中央銀行の過剰な金融緩和という夢を見ていた。
それが目覚めて、ついに長く続いた債券の趨勢的強気トレンドが終わろうとしている。

「3月から始める、今年3-4回とされるFRB利上げは誇張されている可能性が強い。
米国ならびに世界の経済にはあまりにもレバレッジが効いており、2%インフレの世界で2%のFF金利水準を超えれば持続できない。
仮に2%を超えれば、強いドルが新興国市場の成長に影響し、ECBほかの先進国市場の中央銀行では早すぎる金融引き締めにつながってしまうだろう。」

21日のFOMCではFF金利の誘導目標を1.50-1.75%とすることが決まった。
年3回、つまりあと残り2回の利上げがあるとすれば、FF金利は2%台にのせることになる。
グロス氏は、この水準が世界経済をオーバーキルしかねないと警告し、FRBが他の中央銀行と協調することが重要と説いている。


金融市場(債券も株も)では、『野獣』とはまさにレバレッジだ。
いつ《もうたくさんだ》になるかは予想できないが、グレート・リセッション(2000年-2010年代初め)は私たちにハイマン・ミンスキーが正しかったことを教えてくれた。
『安定は不安定につながる』
いい時代や高い価格は誤った楽観をもたらすのだ。

こうした主張をすると、グロス氏がハト派になったと受け取る人もいるかもしれないが、決してそうではない。
グロス氏は、行き過ぎた低金利や金融抑圧を支持しないと明言している。
預金者、年金・保険など金融機関が重要な資本主義のプレーヤーであり続けるならば、最終的には正常化が必要と主張している。
問題はスピードだ。

「ニール・カシュカリ総裁が信じるように、金融システムの過剰は、1930年代のアンドリュー・メロン財務長官流の『清算』で速やかに解消できるものではない。
中央銀行によって抑圧されるのとは逆に民間の影響を受けた金利に穏やかに緩やかに戻ることで解消できるのだ。
2%インフレでの2%のFF金利こそ現状での上限だと考えている。」

問題は経済と資産市場のバランスであろう。
経済をオーバーキルしない緩やかな金利上昇が、金融市場の「野獣」をけしかけないとは限らない。
野獣がさらにインフレ・資産価格を吹かすのであれば、経済は温存されてもインフレ・金融不安定が募ることになる。
これこそ景気サイクル終期において中央銀行に課される困難であり、金融引き締めに正解がないゆえんである。


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