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YCCなら米ドルは崩壊へ:マーク・ファーバー
2020年6月2日

スイス人著名投資家マーク・ファーバー氏の今月の月例書簡のタイトルは「あなたはレッセフェールの資本家、干渉主義者のどちらとして生きたいか?」というものだった。
この踏み絵に対しては、ほとんどの人が、どちらも嫌だと答えるのではないか。


経済学者ポール・クルーグマンは経済学的いんちき療法を新たな高みにまで押しあげた。

ファーバー氏が、ポール・クルーグマン教授の最近のコラム「How to create a pandemic depression」を念頭に同教授を批判した。
ファーバー氏は市場の機能を重視するオーストリア学派、クルーグマン教授は経済をコントロールしたがるニューケインジアンだ。
異端 対 主流。
厳格 対 寛容。
ファーバー氏は、この対立について自ら評している。

「クルーグマンの考え方について覚えておかなければならないのは、経済学には2つの異なる教義があり、ほとんどあるいは全く共通する基礎がないということだ。
1つの主たる経済学の教義は、政府が可能な限り経済に介入すべきでないとするものだ(レッセフェール資本主義)。」

ファーバー氏はオーストリア学派、レッセフェール資本主義の一員だが、この学派は同氏が言うような「主たる経済学」ではないだろう。
異端経済学と呼ばれながらしぶとく生き永らえてきた学派というべきだ。
無理もない。
国民がバラマキを望む度合いが強くなれば、ニューケインジアンあるいはその看板を盗用する政治思想は受けやすくなる。
また、市場が失敗することがあるのも間違いないから、レッセフェールなどありえない。

ファーバー氏が批判したクルーグマン教授のコラムは、拙速なロックダウン解除がパンデミックを再発させるとして、トランプ大統領(と企業)のスタンスを批判したものだ。
教授についてしばしば見られるように独断的で(免疫学上の)根拠に薄く、信頼性に欠けるコラムではあるが、1つの意見表明としては価値のあるもののように読める。
一方、ファーバー氏も決しておかしな人ではない。
なぜ、ファーバー氏がここまできつく批判したのかははっきりしない。
想像されるのは、

  • 経済学者が専門外についてまで独断的な議論をする。
  • 社会を成り立たせるには再始動が必要。
  • すでに失業が得になるほどの支援策が講じられている。
  • 再始動を遅らせればさらに支援策が必要で、後の禍根となる。

などだが、クルーグマン教授のこのコラムに限定する限り、それほど大きな問題のようには感じられない。
ファーバー氏は何を言いたいのか。
同氏の思考はやはりパンデミックうんぬんを超えたところにあるようだ。

レッセフェール資本家と対照的に、干渉主義者またはスタグフレーショニストは、最適な経済パフォーマンスを上げるために、経済が政府によって継続的に運営される必要があると信じている。
そして、不況を回避するために、能動的な安定化と経済への干渉政策が採用されるべきという。

ニューケインジアンをスタグフレーショニストと呼んでいるところが面白い。
本来のケインズの考えを離れ、反循環的でなくひたすら刺激策ばかりを講じるやり方が、いつかスタグフレーションをもたらすと考えているのだろう。
これはオーストリア学派の主張の中で大いに傾聴すべき点だ。
クルーグマン教授が言ってきたようなペースで経済刺激策をやってきたら、何度リーマン危機があっても足りない。
今のニューケインジアンは、自分たちの過去のやりすぎを糊塗するために、過去のやりすぎと同じことに倍掛けしているようにさえ見える。
どこかで反循環的にガス抜きをしておけばよかったのかもしれないのにだ。

ファーバー氏の指摘は、社会のあり方そのものにも向かう。
オーストラリア学派の経済学者の言葉を引用している。

ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス:

資本主義から計画へと歩みを進める度に、必ず絶対主義や独裁主義に近づいていく。

フリードリヒ・ハイエク:

一たび所得のパイの切り分けで綱引きが始まれば、まともな政府は成り立ち得なくなる。

少なからぬ著名投資家がコロナ・ショックに際し、国のあり方が大きく変化する可能性を指摘している。
多くの人は再分配強化や共産主義化(左派ポピュリズム)をイメージしているようだが、ファーバー氏は独裁主義化(極右)をイメージしているのかもしれない。

ファーバー氏は、米国においてイールド・カーブ・コントロール(YCC)が採用されることを強く危惧している。
YCCの要素である長期金利のペッグが、債務のマネタイゼーションに利用されると予想されるからだ。

もしもFRBがこの方向に進むなら、米国は自由市場を失い、国家計画経済へ一気に近づくだろう。

なんとも耳が痛い話だ。
日本がYCCが踏み込んだ時、この点を指摘してくれる人はほとんどいなかった。
日本人はマヒしきっており、外国人は関心を失っていたのだ。
長期金利とは事業プロジェクトの採算検証、資産の理論価格計算における重要なファクターだ。
それが公定金利化することの意味合いは大きい。

ファーバー氏は、米ドル相場について考えを進める。

さらに、米資産の外国人保有者も逃げ出す可能性が高く、そうなれば米ドルは崩壊するだろう。・・・
いうまでもなく、過酷な米ドル安の状況に直面し、外国マネーが米国から逃げるのを防ぐため米国が厳しい外為統制を強いる可能性がある。
しかし、過酷な手段が課されることは、米ドルが世界の準備通貨としての地位を占める時代が永遠に終わることを意味する。


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