ダイモン:大恐慌・リーマン危機再来の可能性は低い

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JP MorganのCEOジェイミー・ダイモン氏がアニュアル・レポートで市場パニックのリスクについて言及している。
金利急騰がボラティリティ上昇・資産価格下落をもたらし、実体経済を悪化させる可能性を論じている。


ボラティリティを高め下落する市場が、市場パニックをもたらすリスクがある。
・・・市場のボラティリティ上昇がもたらす最大のマイナス効果は、それが実体経済の成長を鈍化させる市場パニックを生み出しうることだ。

あくまで一般論として語られたものだが、その内容は現在の米経済の景気サイクルに即した指摘になっている。
ダイモン氏の指摘は、アナトール・カレツキー氏も言及していた経済と金利の間のある乖離に起因している。
ダイモン氏の無難な予想による算数はこうだ。
・成長率: 2%
・インフレ: 2%
・米長期金利: 2+2=4%
・実際の長期金利: 3%弱
この最後の2つの乖離が、急激な変化をもたらすリスクを秘めている。

「現状の10年債利回りが3%より低いところで取引されている理由はFRB(他)による米債務買入れによるところが大きいというのも合理的予想(であり多くのエコノミストが信じているところ)だ。
この状況が完全に逆転しつつある。
来年ぐらいにFRBを含む多くの米債務の買い手が買入れをやめるか逆転させる(外貨運用者、日・中・欧の中央銀行)。」

状況を悪化させるのは各国の金融政策正常化だけではない。
米政府の減税・歳出拡大が赤字国債増発を余儀なくさせ、これも米国債市場を軟化させる。
ダイモン氏は、こうした心配を否定する議論の虚実を検討している。


  • 米銀が米国債を買うのではないか?
    「FRBが売るにしたがい、過剰な準備預金は減り、銀行は流動性要件を満たすために米国債を買わなければいけなくなる。」
    これは事実だが、需給の悪化分をすべて吸収するわけではない。
  • 諸外国が米国債を買うのではないか?
    「諸外国は他の米証券・資産を買ってドルを売ることができる。」

このため、FRBは利上げを加速し、かつ・または、証券売却を加速する可能性がある。
これは間違いなく不確実性を高め、市場のボラティリティを押し上げる。
不況に至るか否かはわからないが、それはワースト・ケースではない。
もしも米経済の成長が加速すれば(そう見えるが)、そして労働市場に残っていたたるみが解消すれば、賃金もコモディティ価格も上昇を始める。
そうなれば、人々の予想よりインフレが昂進する可能性も不合理とは言えない。

あまりにも多くの要素が、インフレ・金利を押し上げ、かつ、FRBの金融引き締めを促すものになっているのだ。
これが市場ボラティリティ・市場価格に及ぼす方向性は明らかだろう。
ダイモン氏はボルカー・ショックを引いて、金利急騰がありえない話ではないと示唆している。

ダイモン氏の意図は、リスクの警告だけではないようだ。
もう1つの意図は、ボルカー・ルールに象徴される過度な金融規制に対する牽制だ。
厳しすぎる金融規制が米銀の市場活動の手足を縛り、結果、厚みを失った市場が脆弱になっていると言いたいようだ。
規制緩和をアピールするためか、さらに一押し危機感を煽っている。

1929年(大恐慌)と2009年(リーマン危機)は過去100年の米国において市場パニックが投資・雇用の大きな減少をもたらした稀有な実例だ。
わたしはこれが再来する確率を高いとは見ておらず、確率は低いと考えている。
・・・しかし、2009年の経験があまりにも生々しいので、常に人々が過剰反応する可能性がある。


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