早川英男氏:経済厚生を把握せよ

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元日銀理事の早川英男氏が、経済厚生(社会厚生)を把握すべきと主張している。
これを知らずに経済政策を策定すれば、間違った方向に走りかねないとの危機感がにじむ。


数年に一回でも経済厚生を全体として把握する努力が必要だと筆者は考える。
結局、経済政策の目的は経済厚生を高めることにあり、GDPを大きくすることではないからだ。

早川氏が週刊東洋経済で書いている。
デジタル時代における経済のパフォーマンスとしてGDPは社会の実相を示していないと論じている。
もちろん従来もGDPと経済厚生は異なるものであった。
しかし、GDPと経済厚生の間にある程度の比例・大小関係を仮定することにより、GDPをモニターすることで経済厚生を間接的にモニターすることができたと指摘している。
以下(中間投入を無視した)初歩の経済学を用いた早川氏の説明を紹介しよう。
まずは、古典的な需給均衡だ。

伝統的な財・サービスの需給均衡

需要曲線とは需要家がある数量(横軸)において支払ってもいいとする価格(縦軸)を表している。
だから、需給の均衡の下で需要家が手に入れた価値の総額は、均衡点までの需要曲線の下側、つまり(黄色の三角+緑の四角)となる。
中間投入を無視しているので、これが経済厚生を表していることになる。
(中間投入を考慮すれば、供給曲線の下の部分を差し引くことになる。)


緑の部分(Qe × Pe)はGDPに計上される付加価値になる。
過去はGDPをモニターすることで黄色の三角(消費者余剰)もだいたいの感触がつかめたのかもしれない。
それは、供給曲線にそこそこ傾きがあったからだ。

ところが、デジタルサービスの時代になると限界費用の小さいサービスが既存の財・サービスを代替するようになった。
ここで、供給曲線の本質を思い出すと、供給曲線とは限界費用曲線に他ならない。
つまり、限界費用の小さいデジタルサービスでは、供給曲線は下方に大きくシフトするのだ。

限界費用が小さなデジタルサービスの需給均衡

ポイントは、付加価値(GDPの源泉、緑の四角)と消費者余剰(黄色の三角)の面積比だ。

  • 伝統的な財・サービスの例: 付加価値 > 消費者余剰
  • デジタルサービスの例: 付加価値 < 消費者余剰

となっていることがわかる。
つまり、早川氏は、限界費用の小さいデジタルサービスが普及した社会では、GDP成長率によって経済厚生を推測するのが難しくなっていると言いたいのだ。
しかも、消費者余剰とは、誰も対価を払わずに得られる厚生を意味している。

仮に、低成長でも経済厚生は大きく伸びているとすれば、政府は過大な刺激策や構造改革を講じることになりかねない。
過大な経済政策は金融市場を歪め、財政を悪化させ、野蛮なまでに弱肉強食の社会を生み出してしまうかもしれない。
低成長でも経済厚生が大きく伸びている社会では、GDP成長ではなく、適切な分配が最適の解かもしれない。
ところが今は時系列を推計することもできないほど何も調べられていないのだ。


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