藤巻健史議員:頭のいい黒田総裁はわかっている

参議院予算委員会で26日、藤巻健史参院議員が黒田日銀総裁らに質問をしている。
その答弁がなんとも心が無いと感じられ、悲しいものだった。


「きっと頭のいい黒田総裁のことだから、自分のご回答が矛盾しているということはおわかりだろうと思います」

藤巻議員は黒田総裁への質問を終える時こう痛切に皮肉った。
議員はそもそもお行儀のいい人物ではないが、それにしてもこう怒る理由は理解できる。
議員は、量的緩和の出口局面で日銀が経常的な期間損失を計上したり、債務超過に至ったりするリスクを問うた。
それに対する黒田総裁の答弁がこうだ。

「金利を引き上げていくという場合には当然、経済・物価情勢の好転によって長期金利も上昇すると考えられるので、日本銀行の保有国債はより高い利回りの国債に入れ替わっていく。
したがって、受取利息も増加することになるので、一概に付利金利が上がったから必ず大幅な赤字になるとは言えない。
二番目には日本銀行の保有国債の評価については償却原価法を採用しているので、国債の市場価格の下落が決算上の期間損益において評価損失が計上されることはない。
また、仮に国債の市場価格が下落して水準によっては含み益(ママ。含み損の言い間違い)に転化する可能性があったとしても、その場合でも中央銀行には継続的に通貨発行益が発生するので円の信用が毀損されることはない。」

残念ながら、これが日本の中央銀行の誠意のほどである。
順に欺瞞を指摘していこう。

金利を引き上げていくという場合・・・保有国債はより高い利回りの国債に入れ替わっていく

この回答には2つの問題がある。
1つは、資産サイドの保有国債にはマチュリティ―の長いものが多く、入れ替わりはかなり緩やかだ。
一方、負債サイドの日銀当座預金の付利は引き締めとともに一斉に上昇する。
保有国債が入れ替わるのは事実だが、負債側の金利上昇の方が早く進む可能性がかなり高い。
藤巻議員が言うように、日銀が逆ざやに陥る可能性は極めて高い。

もう一つの問題点は、入れ替わりがさほど進まない可能性だ。
景気・物価情勢が好転すれば、いつか量的緩和をテーパリングし、バランスシートを縮小する時がくる。
つまり、新たな高金利の国債を買い入れる金額はそう多くないかもしれない。
ちなみに、これは日銀の期間損益にとってプラスだ。
付利しなければいけない当座預金残高(負債)が減るためである。


この事態を打開する1つの方法は、付利の対象となる超過準備の範囲を小さくする、つまり預金準備率を高めることであろう。
この場合、負担は市中銀行に転嫁され、それが預金者に転嫁されることになる。
事実上の税とも言えるため、政府・日銀は今のところ話したがらないのであろう。
これは立法によらない税であり、安倍首相の持論「税こそ民主主義」とは真逆の考えである。

償却原価法を採用しているので、国債の市場価格の下落が決算上の期間損益において評価損失が計上されることはない

市場関係者は誰もこんなことは気にしていないだろう。
市場は常に簿価だけでなく時価を見ている。
会計上の損益とともに実質的な損益も試算して見るものだ。
簿価の議論が注目されるのは、時価をよく理解できない政治家、官僚の間だけの話だ。

また・・・中央銀行には継続的に通貨発行益が発生する

この部分は実は極めて重大な問題である。
黒田総裁の答弁では、保有国債からの金利収入の話と別に通貨発行益があるような語り方になっている。
これは欺瞞と言わざるをえない。
通貨発行益の源泉とは、保有する資産と無コスト・低コストの負債のミスマッチにある。
つまり、保有国債の話と通貨発行益の話は同一のものなのだ。
これを、両方があるような話し方をするのは、国民を偽るものと言われてもしかたあるまい。

ちなみに、保有国債と超過準備のミスマッチについて言えば

  • 超過準備の付利金利の上昇が速い場合、藤巻議員の言うように通貨発行となる。
  • 金融政策正常化の段階に入り保有国債の利回りが仮にプラスの場合、付利のない日銀当座預金が減ることは通貨発行益の巻き戻しを意味する。

つまり、安定的な通貨発行益とは、保有国債の利回りがプラスで、かつ負債側が日銀当座預金でなく現金通貨である場合のみに得られるのである。
通貨発行益を得るために現金通貨を発行するためには経済の貨幣需要を増やす必要がある。
これは日銀当座預金残高を増やすほど簡単なことではない。
そう考えると、日銀にまだ良心があるなら、通貨発行益の話を別に並べるのはやめた方がいい。

(次ページ: 欺瞞の先にあるもの)


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