矛盾、欺瞞、恫喝のツイート

とある権力者の妄言がすさまじい。
わずか2文のツイートの中に、意図した欺瞞がありありと見てとれる。


1) 中国に課した関税のおかげで
2) 合衆国の国庫に数十億ドルが流れ込んでいる。
3) 先は長い。
4) 企業が関税を払いたくないなら
5) 米国内で生産しろ。
6) さもなくばかつてないほど我が国を豊かにすることになる。
(29日、数字はフィナンシャル・ポインターが付加)

おなじみ、とある権力者の妄言である。
眉を顰めるリベラル派の中には経済学への無知との指摘もあるが、そんなはずはない。
曲がりなりにもウォートン卒である。
こうした妄言は無知を超えて悪意でしかない。
それを検証しておこう。

1) 中国に課した関税のおかげで
関税とは外国に課すものではない。
外国に輸出をしにくくするものにすぎない。
関税を課されるのは自国民である。
関税とは輸入企業の仕入れ・消費者の購入に対して定率で課される過酷な税である。
こうした発言をするから、世の中の人は無知を疑うのだ。

2) 合衆国の国庫に数十億ドルが流れ込んでいる。
これは正しい。
米財務省発表の10月のMonthly Treasury Statementによれば、10月の関税収入は55億ドルとされている。
これは輸入者から徴収した税収である。

3) 先は長い。
中国との歩み寄りもほのめかしているから、これはあてにならない。
この場合、GMなど海外生産を検討する在米の企業への脅しなのだろう。


4) 企業が関税を払いたくないなら
このツイートの悪質性を証明するフレーズだ。
数秒前に「中国に課した」と言いながら、実は関税が米企業に課されることを知っているのだ。
これこそ、この権力者の底知れぬ悪を指し示している。
事実や認識を自身にとって都合のいいように捻じ曲げる。
メディアをフェイク・ニュースとののしるが、実は本人こそ最大のフェイク・ニュースの製造元なのだ。

5) 米国内で生産しろ。
一方、この悪漢を批判する時、批判者の側も自身の責務を問い直す必要がある。
経済が絶好調で皆が高給を食める時、こうしたリーダーは生まれない。
良質な需要に不足があり、国際間で取り合いになっている時、《自由貿易こそ絶対善》と言う理屈が通用しないのはバリー・アイケングリーン教授が主張したとおりだ。
だからこそ日本も、異次元緩和による円安誘導という道を選んだのだ。
もちろん、自由貿易こそ目指すべきゴールだろう。
だからこそ、その障害となっている現象を他人事と済ませないことが必要だ。

6) さもなくばかつてないほど我が国を豊かにすることになる。
もちろん、ウソである。
米国民が収めた関税を米政府が受け取っているだけだ。
増収分をはるかに超える法人減税が実施されたから、関税はすべて法人減税に回ったということだろう。
ここまでは国内での所得の移転にすぎない。
関税により輸入が減れば、米企業・消費者が安い輸入品を買う機会が減ることになるから、その分、米国民が損をすることになる。

たった2文の短いツイートの中に矛盾、欺瞞、恫喝が詰まっている。
この人物が世界一の武力・経済を有する国家の最高権力者なのだ。
これは危ない。
こうした都合の良すぎる欺瞞に騙されてしまう人たちは気の毒と言うほかない。
すべては優秀過ぎる他山の石である。


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