ブラックロック

 

ブラックロック:中立的金融政策まではまだ遠い

資産運用の世界最大手BlackRockのElga Bartsch氏が、短期・長期に分けて中立金利を論じるべきと提案している。
ジェローム・パウエルFRB議長講演の前に発表されたブログにはとても興味深い2点が含まれている。


各国の中央銀行は中立的な政策金利を推計する際に金融サイクル(金融レバレッジが上下する期間)を勘案していない。
中央銀行は、景気サイクル(経済の拡大・縮小の期間)に集中するより、トレンド成長率に経済を安定させることを目指すべきであり、長期の中立金利を導出すべきだ。

Bartsch氏が自社のブログに書いている。
不思議と既視感のある主張だ。

FRBが利上げを開始した前後、学者や投資家がそれぞれの立場からFRBの経済モデルに疑問を呈したことがあった。
投資家の代表格が債券王ビル・グロス氏だった。
グロス氏は利上げ開始前から拙速な利上げに対する警戒感を語り、レイ・ダリオ氏のモデルを用いるべきと提案していた。
ダリオ氏のモデルとは、経済の変動を
 1) 生産力の成長
 2) 債務の短期的な周期
 3) 債務の長期的な周期
に起因するものと考えるものだ。

通常、中央銀行の金融政策は(経済安定化策として)景気の山谷を平準化することを目的に行われてきた。
これは2)の短期サイクルの平準化にあたる。
だから、政策金利が注目する中立金利(景気を温めも冷やしもしない金利水準)は、短期的に温めも冷やしもしない金利となる。
しかし、経済の変動にはより長期のサイクルも存在する。
実際に、米経済は35年にわたる超長期の金利低下局面から転換した可能性が高いと考えられている。
短期サイクルのための中立金利は、長期トレンドを温めたり冷やしたりしているかもしれない。
Bartsch氏は、長期サイクルのための中立金利についても意識すべきと言っているのだ。


「経済の産出が潜在力を上回る時、インフレを抑制するため、政策金利を中立金利より高く維持しなければならない。
さらに金融サイクル(特に金融レバレッジが持続的に拡大した期間)を勘案すれば、政策金利は過熱を予防するためにさらに高くしなければならない。
経済がレバレッジを減らし、アニマル・スピリットも控えめな時は、デフレ的な停滞が深まるのを予防するため、FRBは長期サイクルの中立金利よりもさらに低い水準まで利下げをしなければならない。」

Bartsch氏の計算によれば、過去の米国の実質短期政策金利と短期サイクルの中立金利の差は
・引き締め時に最大100 bp
・緩和時に最小▲200 bp
であり、現在は▲150 bpであるという。
これは2つのことを示唆する。

  • 米金融政策はいまだ景気刺激的
  • FRBはまだ6回利上げ余地がある

今はレバレッジが拡大している時期だろうから、利上げ余地はさらに大きいことになる。
Bartsch氏はパウエル議長講演前に、まだかなりの利上げ余地がありうると、これまでのFRBの判断を支持していたのだ。
ところが、28日のパウエル議長の発言はこうだった。

「金利は過去の水準から見て依然として低い水準にあり、経済にとって中立金利の幅のある推計値のちょうど下にとどまっている。」

これまで、利上げ余地はまだ多くあると言っていたのが、中立金利はもう間近とニュアンスを変えたのである。
これには2つの解釈がある。

  • 新たなスタンスが正しいなら、景気・市場の過熱はない。
  • 前のスタンスが正しいなら、引き締めが遅れ、いつものように「最後のひと上げ」がやってくる。

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