ヌリエル・ルービニ:中銀発行の仮想通貨の功罪

ヌリエル・ルービニ ニューヨーク大学教授が、仮想通貨退治を続けている。
教授の仮想通貨嫌いは、仮にその発行体が各国の中央銀行であっても変わらないようだ。


「中央銀行発行のデジタル通貨(CBDC)が発行されれば、たちまち、拡張性もなく安価でもなく安全でもなく、また実際には脱中央集権でもない仮想通貨を置き換えることだろう。
・・・CBDCが無価値の仮想通貨を駆逐する限りにおいては、それは歓迎されるべきだ。
さらに、決済を民間銀行から中央銀行に移管することで、CBDCベースのシステムは金融包摂のためにも役立つだろう。」

ルービニ教授がProject Syndicateで書いている。
教授はあいかわらず仮想通貨との戦いを続けているから、それに対する悪口雑言に違和感はない。
しかし、CBDCにもブレーキを踏んでいるのは興味深い。

そもそも、CBDCについて興味が高まっているのは14日に公表されたIMFのレポートと関係している。
この公表に際し、クリスティーヌ・ラガルドIMF専務理事はスピーチを行っている。

「私はデジタル通貨を発行する可能性を検討すべきだと思っています。
国家にはデジタル経済に通貨を供給する役割があるかもしれません。
デジタル通貨は (a) 金融包摂や (b) 安全性と消費者保護といった公共政策上の目標を満たせるかもしれませんし、また、民間部門には提供できないものである (c) 決済のプライバシーを提供できるかもしれません。 」

その上で、利点とともに問題点も提示し、各国の中央銀行に検討を促したのだ。
ラガルド氏の問題提起は、新しいものを初めから拒絶すべきでなく、その可能性を少なくとも積極的に検討すべきとのスタンスだ。
陰鬱な天才はすぐさま、この変化に内在するリスクを嗅ぎ取っている。


「CBDCの主たる問題点は、商業銀行が保有する流動性預金より多くを貸し出すことで貨幣を創造するという現行の部分準備銀行制度を崩壊させる点だ。」

中央銀行がデジタル通貨を発行すれば、口座間の決済に市中銀行が介在する必要はなくなる。
個々人が中央銀行にデジタル口座を保有し、その口座間の決済は中央銀行内で完結することになる。
つまり、中央銀行がナロー・バンクとしての機能を果たすことになる。
一方、市中銀行は預金と決済の業務がなくなるか、あるいは大幅に縮小されることになる。
残る主たる業務は貸出だ。

「これは金融の革命であり、多くの恩恵をもたらす。
中央銀行は、信用バブルをコントロールし、銀行の暴走を止め、マチュリティのミスマッチを防ぎ、民間銀行の危険な信用・貸出判断を規制しやすくなるだろう。」

ついでに言えば、脱税や不法行為の取り締まりがやりやすくなり、マイナス金利の深掘りも可能になる。
しかし、こうした利点はもちろん諸刃の剣でもある。

「もしも、政府が事実上銀行の唯一の預金者/資金提供者となったら、国家による貸出判断への介入のリスクが生まれるのは明らかだ。」

なんという絶大な権力であろうか。
貸出も、そして決済さえも国家(含む中央銀行)が押さえるとなれば、権力者は潰したい相手の金脈を完全に断つことができるようになる。
こうした危機感は、ビットコイン初期、まだ仮想通貨が犯罪や投機にまみれる前に夢を抱いた少数の人たちの理想だったはずだ。
そう考えると、たとえCBDCが導入されても、投機や不正のためでない仮想通貨を試みる人はなくならないのかもしれない。
そういう人もいることを祈りたい。

さて、ルービニ教授の好き嫌いははっきりしている。

時がくれば、CBDCベースのナロー・バンクと貸出資金仲介機関がよりよく安定的な金融システムを確約してくれるだろう。
もしも(CBDC以外の)選択肢が危機を起こしやすい部分準備銀行制度と仮想通貨のディストピア(ユートピアの反対)であるなら、このアイデアを残しておくべきなのだ。


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