ロバート・シラー:物価目標が経済を不安定化する

ロバート・シラー教授が、貨幣錯覚という観点から物価目標について論じている。
事実上、2%物価目標の再考を促す内容となっている。


物価目標を2%またはそれ以上に維持することで物価の不確実性を減らせば、現実には住宅の価値や投資についてなど現実の物事についての不確実性の感覚を増大させることになる。

シラー教授がProject Syndicateに書いている。
事実上、現行のFRBの2%物価目標に対して取りやめるよう促す内容だ。

実のところ、過去のシラー教授は一貫してFRBの金融政策を支持していた。
2016年2月のThe Income Generation Showでも、イエレン議長の政策を支持し、2%程度の物価目標ならば肯定されると話している。
では、そのシラー教授がなぜニュアンスを変えたのか。
その原因の1つは、非常時であるかどうかの認識なのだろう。

シラー教授は、寄稿の中で、現行の物価目標の生い立ちを説明するため、バーナンキ元議長の話をしている。
バーナンキ氏は金融危機の専門家であり、リーマン危機に対処するには適した人物だった。
同氏はFRB理事となる前から、物価目標導入を中央銀行に勧めていた。

「1998年の著書『Inflation Targeting』でベン・バーナンキらは政策決定者に物価目標を公表するよう勧めた。
それが『中央銀行の意図のコミュニケーション』となり、『不確実性を減じる』からだとした。
公表される物価目標は意味のあるプラスの数字にすべきとし、もしも当局がゼロに近い目標にしたら、何かの誤りでデフレになる可能性があり、それが『金融システムを脅かし、経済の収縮をもたらす』かもしれないと書いている。」


バーナンキ氏はFRB議長として2012年に2%物価目標を導入。
世界最重要の中央銀行が物価目標を導入したことで、今ではそれが《世界標準》と言われ、多く継続されている。
しかし、物価目標はいつまで継続されるべきなのか、その議論はあいまいだ。
シラー教授は、平時に物価目標を続ける根拠は薄い点を指摘する。

大きなデフレを心配するのは正しいことだが、歴史的に言ってデフレと不況の間の関係はそう強くない。
2004年の論文で経済学者Andrew AtkesonとPatrick Kehoeは結論している。
関係の根拠とされるものの多くはたった1つのケースにすぎない: 1930年代の大恐慌だ。

大恐慌やリーマン危機でデフレを回避するのは重要なことだったのだろう。
しかし、平時ではどうなのか、そこに根拠は見いだせていない。

シラー教授は寄稿の中で貨幣錯覚に重点を当てている。
2013年にノーベル経済学賞を受賞し、2016年には米経済学会会長も務めた行動経済学者が選んだのは、まさに行動経済学者らしい視点だ。
教授が住宅価格や投資について言及した背景には、さまざまな貨幣錯覚の存在がある。

  • 住宅価格: 高インフレが続くと以前に住宅を買った持主は儲かったと感じるが、低インフレだとその度合いは小さい。
  • 株価下落: パーセンテージでは史上最大でないのに、(株価指数が大きくなっているために)ポイント幅で最大であるといってメディアが騒ぐ。

貨幣錯覚はこれに限らない。
人々が錯覚にとらわれることが不確実性を生むなら、それが経済を冷やすこともあるだろう。
日本はそれをもっとも体現した経済かもしれない。

数%ポイントの物価目標なら安定を促進するように見えるかもしれないし、実際そうなのだろう。
しかし、私たちはそれが、私たちの判断の安定性に逆効果を及ぼす微妙な誤解を生みうる可能性を考えねばならない。


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