ハワード・マークス

 

【書評】投資で一番大切な20の教え

執筆:

Oaktree Capitalのハワード・マークス氏が自らの「投資哲学の声明文」と称した本。
ウォーレン・バフェット氏を始め、セス・クラーマン氏、ジェレミー・グランサム氏、ジャック・ボーグル氏など投資の世界のたくさんのグルたちから称賛されている。


「本書はハウツー本ではない。
投資を確実に成功に導くレシピは載っていない。
・・・段階的指導もない。
・・・方程式もない。
ただ、投資家が適切な判断を下し、・・・落とし穴を避けるのに役立つであろう思考方法を紹介しているだけだ。」

マークス氏が本書の性格を解説している。
まさに、そのとおりだ。
これは足し算の本ではなく、引き算の本だ。
投資という単純だが複雑な思考を必要とされるプロセスにおいて、失敗を排除するための本なのだ。

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本書では、マークス氏が投資家向けに公表している「The Memo」のエッセンスを交え、投資の20の要所が述べられている。
いずれも興味深いものだが、ここでは今はやりの「サイクル」について書かれた第8章の一部を紹介しよう。

原則その1・・・ほとんどの物事にはサイクルがあることがやがて判明する。
原則その2・・・利益や損失を生み出す大きな機会は、周りのものが原則その1を忘れたときに生じることがある。

景気や株式市場のサイクルにかかわる重要な信念の表明だ。
何ごとも上下しながらも中央回帰する傾向があると述べられている。
だからこそ「Buy low, sell high.」の戦略が成り立つことになる。


「周りのものが原則その1を忘れたとき」とはどんな時か。
それはみんなが《It’s different this time.》(今回は違う)と言い始めた時だ。
この4語をマークス氏は「世界最悪の4語」と呼んでいる。
こうした時、市場はオーバーシュートしたり、アンダーシュートしたりする。
その時こそ逆張りが最も良好なリターンを与えてくれる瞬間なのだ。
マークス氏は、こうしたチャンスに接した場合、果敢に落ちるナイフを掴みに行くと話している。

マークス氏が市場サイクルを重視するのには単純な理由がある。
上げ相場ではほとんどのものが上げ、下げ相場ではほとんどのものが下がるからだ。
つまり、重要なのは何を選ぶかではなく、攻めるか守るかなのだ。
では、その二者択一をどう判断すればいいのか。
どんなに優れた投資家でも将来を完全に予見することはできない。
しかし、将来を確率現象ととらえて、その分布を予想することはある程度できるかもしれない。
予想の精度を上げるほど、攻めるか守るか的中するオッズが上がるだろう。
その予想のフレームワークとなるのがサイクルという経験則だ。

本書ではサイクルの各局面が列挙されており、要約すると

  • 好況期突入
  • 銀行が資本増強
  • 投融資のリスクが感じられなくなる
  • リスク回避志向がなくなる
  • 銀行が貸出を増やす
  • 銀行が貸出基準・金利・担保など貸出条件を緩める
  • (景気サイクルのピーク)

  • 貸し倒れにより貸出姿勢が消極化
  • リスク回避により貸出条件が厳格化
  • 供給される資本が減少、デフォルト・倒産
  • 景気後退

マークス氏は、少し前までのセル・サイドの常套句を言い当てている。

10年に一度ぐらいの感覚で人々はサイクルがなくなったと思い込むのだ。
良い時期が絶え間なく続く、あるいは悪い流れに歯止めがかからないと考え、『好循環』や『悪循環』という言葉をよく使うようになる。


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