白川前総裁:中央銀行への過信

白川方明 前日銀総裁が、金融政策についてインタビューに応えている。
含蓄の深い話が並んでおり、言外の含意を読み取っておこう。


「日本の金利は低く、金融政策で主体的に内外の金利差を拡大する余地は無かった。
海外の景気が後退し、欧米の金利が下がると円高となり、景気回復時には円安になる。
円安のピークは世界金融危機直前の07年7月、円高のピークはユーロ危機が最悪期の12年7月だった。」

日本経済新聞から、退任直前の円高に対する不満の声について尋ねられ、白川 青山学院大学教授が語った。
一見、質問と回答が一致していないように聞こえるが、それには理由がある。
白川教授は、異次元緩和が円高ピークアウトの主因とは考えていないのである。
内外の景気動向に従って、円相場が変動したに過ぎないと言っているのだ。
この見方は皮肉にも昨年、日銀自身によって検証されている。

建前は別として、金融緩和を求める人たちの大きな関心事は為替だろう。
その為替に大きな効果が認められないのだとすれば、私たちは何を金融緩和に期待すべきなのだろう。
白井教授は、金融緩和とは需要の前借りで、それにも限界があり、一時的な需要の落ち込みに対応できるにすぎないと言う。

「先進国にとっては需要ショックの局面はおわった。
今の日本の最重要課題である高齢化、生産性、財政赤字、格差の問題は金融政策で解決しない。」

構造問題への対処が必要であることを強調した。
先日の会見でも教授は「答は金融政策にはない」と話していた。

白川教授は、世界的に中央銀行の物価抑制能力に対する過信があると示唆している。

「スタグフレーションの反省にたち、物価安定を重視してきた金融政策の効果が80年代おわり頃から実を結び始めた。
ほぼ同じ頃、社会主義国が市場経済に入り、情報技術革命も起きた。
物価の安定と高成長が併存し、学界も政策当局も金融政策の運営能力を過信するようになった。」


池尾和人 立正大学教授が、政府に対して似たような指摘をしている。
「マクロ経済を政策を通じて制御する絶対的な能力が政府にはあるという前提」があるとし「ある種の傲慢に陥っている」と懸念している。

世界的に1960年代終わりから1980年代初めはインフレの時代だった。
金利は超長期の上昇局面であり、不景気になればスタグフレーションが心配された。
ところが、ボルカー・ショックの頃から低インフレの時代が始まり、超長期の金利低下局面がやってきた。
さらに、グローバリズムとITが物価低下圧力となってきた。
こうした低インフレ環境を学者も政治家も中央銀行も、中央銀行の能力と誤解している可能性がある。
多くの人たちが「リスクはインフレではなくデフレ」、「インフレ退治はいつか来た道」とインフレのリスクを軽く見ている。
もしも中央銀行のインフレ抑制能力が万全でなく、市場や環境が高インフレ局面に変化した場合、果たして本当に簡単に退治できるのか。
ことさらに心配すべきではなかろうが、安心するだけの材料もたいして見当たらない。

さらに、根本的な疑問として、インフレには本当に経済を刺激する効果があるのか。

中銀の使命は民間が安心して経済活動できる環境を通貨の面から整えることだ。
・・・物価で重要なのは中長期的な安定だ。
物価の大きな変動が懸念されると、住宅購入や設備投資といった長期にわたる決定をしにくくなる。

インフレ期待で消費・投資が増える経済もあるのだろうが、これまでの日本はそうではなかったように見える。
インフレが進むからお金を先に使おうとする人もいるだろうが、インフレが進むから財布の紐を締めようという人もいる。
日本の場合、たかだか1回の2%消費増税のために軽減税率、ポイント還元、プレミアム商品券などと騒ぐ国である。
その国が毎年2%の物価上昇を求めるというのはいったいどういうことなのだろう。


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