リチャード・クー氏:利上げよりバランスシート縮小

野村総研のリチャード・クー氏が「バランスシート不況」の観点からFRB金融政策の本音を解釈している。
最近の中立金利の議論は市場の関心を逸らすための作戦なのだという。


「市場参加者の議論の的は、FRBがさらにどこまで利上げするかだ。
1つには中立金利が何%にあるかにもよるが、FOMCメンバーはまだこの問についてコンセンサスに至っていないようだ。」

クー氏の観察をFXStreetが伝えている。
中立金利とは、景気を刺激も抑制もしないとされる金利水準のこと。
政策金利を中立金利より低く誘導すれば景気刺激的となり、高くすれば景気抑制的となる。
市場は、FRBがこの中立金利を超えるほどには利上げしないだろうと考えていた。
ところが、今月パウエルFRB議長はこう語った。

「FRBは中立金利を超えるところまで利上げするかもしれない。
ただし、現時点ではおそらく中立金利まではまだ幅がある。」

この発言が、今月の米長期・超長期金利上昇の一因となったのは間違いあるまい。
しかし、クー氏はこの発言がFRBの陽動作戦だったのではないかと深読みしている。

総じて言えば、中立金利についての最近の言及は、単に市場参加者の注意を逸らすためのものだったと推測している。
中立金利という考え方は、借り手不在の下ではほとんど意味をなさないからだ。

クー氏が唱えてきた「バランスシート不況」では、危機後の後遺症として借り手がいなくなってしまう。
これが深刻で慢性の不況を引き起こす。
経済において(民間の)借り手がいなくなるから、中央銀行が金利水準を引き下げても緩和の効果は得られない。
民間需要を喚起する政策が手詰まりになる。
だから、国が借りて財政支出を増やすべきとの議論になる。


バランスシート不況においては、政策金利や中立金利の議論が実は重要な意味合いを持たないことになる。
この議論で分かりにくいのは、果たして米経済が依然として「バランスシート不況」と呼ぶべき状態なのかであろう。
リーマン危機後、似たようなコンセプトがいくつか語られ、現状について見方が分かれている。
21世紀の趨勢的停滞論を提唱したローレンス・サマーズ氏は、今でも趨勢的停滞が継続していると主張している。
(これについては、仲間と思われていたジョセフ・スティグリッツ教授から反対論が呈されるなどドラマがあった。)
また、PIMCO時代にNew Normalを唱えたモハメド・エラリアン氏は、米経済がNew Normalを脱したと語っている。

クー氏は、中立金利の議論がFRBの陽動作戦だと考えている。
では、FRBの本当の関心事はどこにあるのか。
クー氏は、今月始まった月500億ドルのバランスシート縮小にあるとし、金融政策正常化が「最終的な重大局面」に入ったと解説した。
同氏の予想では、FRBがこれを2年間続ければ、準備預金の水準がほぼ正常に戻るという。

「現在のFRBの最大の関心事は、おそらく今月始まった500億ドルの超過準備の吸収がスムーズにいくかだろう。
・・・
FRBは、月500億ドルの超過準備吸収が軌道に乗るまで、注意を金利に引き付けておきたいのだろう。」

クー氏は以前バランスシート縮小について、市場が気づかない限りは債券価格の下落も限定的で済むと述べている。
今回の陽動作戦説も市場が気づかないようにという筋立てなのだろう。
もっとも、気づかずにすむと予想するのは少々楽観的すぎる。
大規模財政刺激策により、米財政悪化は急加速している。
米国債が増える要因が多すぎるのだ。


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