白川前総裁:答は金融政策にはない

白川方明 前日銀総裁が退任後として初の記者会見を行った。
長らく沈黙を守ってきた同氏だが、新著『中央銀行: セントラルバンカーの経験した39年』(アマゾン)発刊にともない講演したもの。


過去5年の経験が示すように日本経済が直面している答が金融政策にないことは明らか。
物価が上がらないことが低成長の原因ではないと思う。

白川 青山学院大学教授がアベノミクスと異次元緩和の5年からあらためて自身の考えを語った。
金融政策を過信したために本来注力すべき他の政策が遅れた可能性を示唆した。
過去5年を振り返れば、リフレ派が喧伝していた命題のいくつかが誤りであったことは明らかだ。
それは日本だけの話ではない。

2%物価目標を達成した米国でさえ、金融政策でそれを達成することはできなかった。
3回に及んだQEをもってしても2%目標が達成できない。
そこで、リフレを当然と考えていた米社会もようやく理解したのだ。
金融政策には限界があり、より包括的な経済政策が必要だと。
日本流に言うなら、3本の矢が揃って初めてインフレは上昇するし、経済も拡大する。

米国の場合、この実現は皮肉な形でもたらされた。
トランプ大統領の出現だ。
必ずしもセオリー通りでない構造改革、財源を伴わない財政刺激策が米経済を押し上げ、インフレを押し上げた。
セオリーに反し、財源が伴わないため、この効果が持続可能かどうかはクエスチョンマークだ。
貿易摩擦や移民排斥は経済にマイナスだろうし、財源のない減税はいつか逆転を余儀なくされるのではないか。
つまり、リフレや経済成長に効く魔法はない。
即効性に乏しくとも、地道に構造問題に取り組むしかない。


日銀総裁時代、円高を放置したとの批判さえ受けた白川氏だが、この批判もまったく筋違いなものだった。
本来、為替政策は財務省の所管であり、それを日銀に求めること自体がおかしい。
もしも、円安誘導に整合的な金融政策を望むなら、まず政府が行き過ぎた円高の修正を宣言し、介入すべきだった。

2013年1月の政府・日銀の共同声明について、白川氏は、金融政策だけでは2%目標を達成できないことを前提にしていたと明言した。

「日銀として譲ることのできない基本原理を政府との合意文書に明記、全て書き込んだ。
(物価安定目標の)2%は、経済の改革が進むことが前提としている。」1)

その他の発言は以下のとおり:

  • 根本的な問題は「人口減少に経済社会が十分適合できていないこと。」
    「『時間を買っている』間に少子高齢化に伴う社会保障の赤字削減など財政の持続可能性確保を急ぐべき。」3)
  • 金融緩和の効果は「投資しようという将来の需要を現在に持ってくることだ。」
    「だんだん需要がなくなってくるので、長続きしない。」
    しかし「いきなり変えるのはショックが大きい。」2)
  • 金融政策の出口と言うのは適切ではない。
    金融政策それ自体というよりは、財政の持続可能性であり、日本経済の持続可能性。
    日本全体として持続可能性にしっかりと取り組むことが最大の出口戦略。
    金融政策の出口と言うと問題が矮小化する。」1)

1) Reuter2) 日本経済新聞3) 産経新聞


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