アイケングリーン:「法外な特権」の賞味期限

IMFのシニア政策アドバイザーなどを務めたUC Bercleyのバリー・アイケングリーン教授が、ドル離れを招く米国の防衛・外交政策を批判している。
このままならドルに残された時間はそう長くないかもしれないという。


「共通通貨ユーロ創設の目的の1つは、ドルへの過度な依存から欧州を解放することだった。
これは、人民元を国際化しようとする中国の動機と同じだ。
両者のこれまでの成果は良くてもまあまあといったところ。
欧州や中国を脅すことで、トランプは皮肉にも彼らの目標達成を助けているのだ。」

アイケングリーン教授がProject Syndicateに書いている。
教授によれば、トランプ大統領の二国間主義が世界を不可逆的に変化させているという。
同盟国、対立勢力の境もなく自国の利益のために要求を突きつける傲慢な米国に世界の国々が嫌気を感じている。
付き合いは必要最小限にとどめ、弱みを掴まれたくないと考えている。
その弱みの1つは通貨であり、国際間の決済のかなりの部分にドルを使わざるをえない現状だ。
米国は米銀を規制することによって、諸外国の国際決済に介入することができる。

ジェフリー・サックス教授は、ドルが基軸通貨であることのメリットを3つ挙げている。
資金調達、金融ビジネス、そして金融規制である。
こうした特権をトランプ政権が危うくしているとし、国際社会の秩序を踏みにじる政策を強く批判している。


米国の一方的なイラン合意離脱は欧州を怒らせた。
EUは先月イランとの間での新たな決済システム構築を発表した。
イランとの事業を継続する欧州企業に決済手段を提供するためのものだ。
世界がドルを使うことに疑問を呈し始めている。

では、ドルという依然強い通貨から基軸通貨のステータスをはぎ取ることなどできるのだろうか。
アイケングリーン教授はこう自問し、EUの動きを見る限りありえなくはなくなったと考えている。

ありえなくないのなら、何が起こりうるのかを知りたいのが投資家だろう。
アイケングリーン教授は、ドルが基軸通貨になった時を思い出すことが参考になるという。
1914年までは国際的役割など微塵もなかったドルが、どうやってスターリング・ポンドから基軸通貨の座を奪ったのか。
教授は地政学的ショックと制度変更がこの地殻変動を引き起こしたと分析する。

  • (地政学的ショック)第1次世界大戦
    「中立国が英国の銀行と取引をし、スターリング・ポンドによって口座決済をするのが難しくなった。」
  • (制度変更)連邦準備法
    「設立されたFRBがドル建て信用の市場流動性を高め、初めて米銀に海外での営業を可能にした。」

アイケングリーン教授の予想は他の識者のそれよりかなり切迫したもののように聞こえる。
米国が諸外国を愚弄できる時間はそう長く残っていないのかもしれない。

1920年代初めまでに、ドルは国際取引の主たる決済通貨としての地位でスターリング・ポンドに追い着き、ある観点では追い越した。
この先例から考えると、ヴァレリー・ジスカール・デスタン仏財務大臣(当時)が『法外な特権』と呼んだことで有名な、世界の主要国際通貨発行という特権を米国が失うタイム・フレームは5-10年ぐらいということになろうか。


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