ジェレミー・シーゲル:景気サイクル後半のダイナミズム

ウォートンの魔術師ジェレミー・シーゲル教授が、米国株について引き続き慎重なスタンスを維持している。
米市場を脅かす金利上昇の影響を教授は論理立てて解説する。


(米国株は)横ばいかやや下落だろう。

シーゲル教授がCNBCで予想した。
つい昨年まで《永遠のブル》と言われ、米市場上昇を言い当ててきた教授だが、昨年末からスタンスを反転させている。

「今四半期(債券)利回りは間違いなく株式市場にとって試練になる。
・・・今、金利が上昇を始めた。
金利とは利益から資本を計算する時の分母であり、それが大きくなるのは試練なんだ。」

シーゲル教授は、株価の最も重要な2つの決定要因が企業収益と金利であると解説する。
足元の米企業業績は引き続き好調だ。
しかし、それも出尽くしたという。

「予想利益を見ると、横ばいか緩やかな低下傾向だ。
企業収益についてのすばらしい材料はすべて市場に織り込まれた。」

企業業績がピークを打ちそうならば、もう片方の決定要因 金利はどうだろう。
こちらも不利な方向に動きそうだ。
FRBは依然として利上げに積極的であり、長期金利にも上昇の動意がうかがわれる。
最近の長期金利上昇はイールド・カーブの長短逆転の心配を遠のけた。
しかし、シーゲル教授は、それゆえにFRBはますます利上げを積極化させると読む。
そして短期・長期の金利が上昇すれば、株式市場が上昇するのは難しくなると話す。

「いい材料となりうるものを探すなら、米中協議が年末までに合意することだろうか。
そうなれば少しは上げるだろうが、それ以外は今四半期に株式を大きく上昇させる材料は見当たらない。」

この金利上昇をもたらす1つの要因はインフレの兆しであり、賃金上昇の兆しだ。
5日の雇用統計も、米労働市場の逼迫を示唆する内容だった。
シーゲル教授は賃金上昇の二面性を説明する。


生産性向上による賃金上昇はとてもいいことだ。
しかし、極めて逼迫した労働市場による賃金上昇は問題だ。
(低い)失業率は問題になっている。

雇用が改善するのは望ましいことだ。
しかし、生産性が向上しないのに時給が上昇するのでは、労働者は嬉しくても、企業・産業にとってはマイナスになってしまう。
人件費率の上昇を通して株価にもマイナスに働いてしまう。
経済全体で見れば、労働者と企業の間の分配の線引き変わるだけだから一次的には中立と見るべきだろう。
では、生産性が向上しないのに時給が上昇するとはどのような時に起こるのか。
シーゲル教授は、これを景気サイクルにおける局面と対応づけている。

景気サイクル初期において強い経済ニュースは株式にとってプラスだ。
経済にはたるみがあり、金利上昇も問題にならない。
サイクル後期における労働市場の逼迫と需要押し上げは、金利と株式市場にとって問題だ。

景気サイクル初期においては経済にはたるみ(≒GDPギャップ)が存在する。
言い換えると、遊んでいる労働力等がある。
だから輸入関税や財政刺激策によって国内需要が増大しても、そのたるみの部分で吸収できてしまう。
ところが、景気サイクルが進むにしたがってこのたるみが解消していき、労働力など供給能力に余裕がなくなっていく。
すると、労働者の取り合いとなり、生産性が向上しなくても時給は上昇してしまう。

シーゲル教授は、今のところすぐさま景気後退に陥る兆候は見られないと認める。
また、通常イールド・カーブがフラット化してから景気後退が始まるまで6-12か月ある点も気休めになっているという。
しかし、それでも労働市場の逼迫はインフレと金利上昇を示唆していると教授は心配する。

イールド・カーブ逆転が景気後退に先行することは、株式投資家にとって大した気休めにはならないだろう。
なぜなら、株式市場もまた景気後退に先行するからだ。
浜町SCIの調べでは、過去4回の米景気後退期で株式市場は単純平均8.5か月程度の先行性を示している。


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