【書評】世界経済入門(野口悠紀雄)

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早稲田大学ファイナンス総合研究所の野口悠紀雄氏が上梓した、世界経済の読み解き方の解説書。
昨年刊行した『日本経済入門』の世界経済版である。


『世界経済入門』の方もバランスよく世界経済の概要を解説している。
数字・グラフを織り交ぜ、読者の理解が進みやすいよう配慮されており、新聞の経済欄を読むような人なら容易に理解できる平易さだ。
逆に経済学を学んだ人にすれば、あっという間に読み終わる読み物だろう。
しかし、それでも時間を無駄にしたとは感じないはずだ。

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本書では時々著者の明確な考えが付言されている。
しかも、コンセンサスのない分野で必ずしもオーソドックスとは言えないような考えも含まれている。
経済学をよく知った人でも、こうした著者の主張は興味深く読めるのではないか。
いくつか例を挙げると

  • 「今後の日本は、貿易立国ではなく、投資立国を目指すべきなのです。」
  • 「(食料)自給率は低いほうがよいのです。」
  • 「(FTAやTPPは)自由化ではなく、自由貿易の原則に反するブロック化協定です。」

筆者は必ずしもその結論において著者に同意はしない。
しかし、そこに至るロジックについてはまったく妥当・有用なものと言わざるをえない。
政治家や太鼓持ちのエコノミストの中には、経済理論の一部を自分たちの都合のいいように用いる人がいる。
彼らは「国益」、「日本のため」、「国民のため」などと言うために経済理論を捻じ曲げて使うことがある。


例えば貿易交渉では、彼らがやっているのは必ずしも経済理論にかんがみ正しいこととは限らない。
それは単に似たように卑しい他国に押し込まれないようにしているにすぎない。
これは、日本のためになることもあるし、多くは日本の一部の人たちの利益となる。
それが、すべて悪とは言わないが、正しいこととも限らない。

こうしたことは、優れた政治家・官僚は当然理解しているし、知識を備えた市民もまた同様だ。
しかし、よくつきつめて考えない人や経済に不案内な人は、それが正しいことと勘違いしてしまうことも多いだろう。
そう思い込めば、自国が善で他国は悪という固定観念が出来上がってしまう。
悪意の有無にかかわらず、権力の「正直、公正」が不足している。
最近では先進国でさえ政府が一種の情報統制を望み、こうした国際的不和を生む現象を助長している。
もちろん、こうしたやり方は国内にも不和を生んでいるはずだ。

この本ではまた、現実と離れてひどく教科書くさいテーマまで言及している。
一例は、デイビッド・ヒュームが定式化した「物価・正価流出入メカニズム」だ。
ほとんどの人が金本位制の記憶を持たない、あるいは失いつつある今、同メカニズムを議論することもなくなっていた。
金本位制では何が起こっていたのか。

経常黒字 → 金が流入 → 金準備で規定されていた貨幣供給量が増大 → 物価上昇 → 貿易における競争力低下 → 経常赤字 → 金流出 → 貨幣供給量減少 → 物価下落 → 経常黒字 → ・・・

長らく死語と化していた概念だが、貨幣供給量が大きく変化し、貿易の不均衡も拡大を続けている今、なんとなく想像力をかき立てられるテーマではないか。


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