ロバート・シラー:みんな過去を学ばない

資産価格の実証的研究で2013年ノーベル経済学賞を受賞したロバート・シラー教授が、リーマン危機後10年にちなみインタビューを受けている。
楽観・悲観のいずれにも偏ることなく、淡々と過去のファクトから将来起こるであろう可能性を述べている。


あまり(リーマン危機から)学んでいないようだ。
みんな私の講義をとっていないから。
オンラインで無料で受けられるんだよ。

シラー教授がYahoo Finance!に話した。
市場の記憶力ならぬ忘却力はすばらしい。

「米国は過去多くの異なる金融危機を経験してきた。
私たちはそのうち最近のものの記憶だけを保つ傾向がある。」

日本では、市場は25年もするとすべてを忘れると言われてきた。
米国では景気循環1回で忘却が完了するとも言われる。
リーマン危機やドットコム・バブル後の暴落は記憶にこそあるものの、その辛さは忘れられつつあるようだ。
ましてや、1世紀前となると何をかいわんやだ。

「FRBが創設された時、それは1907年危機に対応するためのものだった。
今ではみんなが忘れている。」

いわゆる1907年危機では、マネー・サプライを操作する中央銀行をまだ持たなかった米経済は大きな打撃を受けた。
J・P・モルガンの獅子奮迅の活躍で事態は収拾したものの、それだけで危機の再発を防ぐことはできない。
そこでFRBが設立された。
その経緯がすでに忘れられている。
それは同時に、当初からFRBに対しタブーとされてきたことをも忘れさせている。

シラー教授は、危機とは危機が表面化する前から進行しているものだと説く。
サブプライム/リーマン危機(2007-08年)は住宅市場のバブルの崩壊過程だった。
(参考: 2008年の金融危機の軌跡
2008年のリーマン危機とは、その問題表面化が決定的になったタイミングにすぎない。


「私たちはあの危機を10年前と言うが、その前兆はその1-2年前から始まっていた。
住宅価格は2006年にピークを打ち、いくつかの年では2005年がピークだった。
そして、ついに起こっていることをみんなが不審がりパニックになったんだ。」

さらに、前兆(住宅バブル)を生み出した《根拠なき熱狂》とそれを引き起こした(金融緩和など)諸要因はその前に存在していた。
シラー教授は、今の市場に根拠なき熱狂は存在すると断言した。
現在の経済・市場は歴史的に見て特段リスク回避的ではないとして、その一因をトランプ大統領に求めている。

「ドナルド・トランプ経験とでも言おうか、彼はリスク・テイクの振る舞いの見本になっている。
みんなが下した結論とは『心配することはない。大丈夫だ』というものだ。
『何か問題が起こっても問題じゃない。リスク投資しても大丈夫。』
トランプはみんなにリスク・テイクを促しているんだ。」

シラー教授は、足元の景気拡大・強気相場が記録的な長さに及んでいる点を挙げ、たとえば2020年頃までに景気後退が始まっている可能性は高いと予想する。
ただし、過度な楽観も悲観もすべきでないと諭す。
「最近のものの記憶だけ」に囚われれば、悲観が行き過ぎる可能性が高いだろう。

「次の景気後退が深刻なものになるかどうか、私は深刻なものにならないよう祈っているが、人間は常として深刻なことを予想したがらない。
ほとんどの景気後退は穏やかなものだ。」

行動経済学の第1人者は、人間の愚かさを知り尽くしている。
南海泡沫事件で当初大儲けをし、最後にはその3倍を失ったニュートンの例を挙げて、人間の歴史は繰返すと暗示している。

人間の頭脳はすばらしいことを実行する力を持っている。
しかし、同じように、偉人の時代にさかのぼれば、アイザック・ニュートン卿でも愚かな考えを抱き、愚かな結果になった。


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