Time誌:リーマン危機の25の犯人

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リーマン危機から10年が経ち、金融メディアはこの話題で持ちきりだ。
かなり前のことになるが、リーマン危機の翌年Time誌が「百年に1度」と言われた金融危機の犯人探しをしている。(浜町SCI)


Timeは25の候補を挙げ、その候補に対して投票が行われた。
個人名が多くなっているが、多くが似たような立場の人たちを代表して候補とされている。
その結果がこれだ。

  1. Phil Gramm: 規制緩和を推進した米上院銀行委員会委員長
  2. Charles Christopher Cox: マドフ事件を見逃したSECの元委員長
  3. Angelo R Mozilo: サブプライム・ローン会社Countrywide Financialの元CEO
  4. Joseph Cassano: CDSビジネスを率いた元AIG Financial Products部門長
  5. Frank Raines: Fannie Maeの元会長兼CEO
  6. Kathleen Corbet: Standard & Poor’s元社長
  7. Ian McCarthy: 悪質住宅会社Beazer Homesの社長兼CEO
  8. Bernard L. Madoff: 巨額ポンジ・スキームをはたらいたNasdaq元会長
  9. Richard S Fuld: Lehman Brothers会長兼CEO
  10. Sandler夫妻: 仕組み住宅ローンを販売したGolden West Financial Corporation and World Saving共同CEO
  11. Stan O’Neal: Merrill Lynch元CEO
  12. John Devaney: 住宅ローン債権を買い、応援団役を務めたヘッジ・ファンド・マネージャー
  13. Sanford Weill: 深刻な経営不振に陥ったCitigroup元会長
  14. James E Cayne: 破綻したBear Stearns元CEO
  15. ジョージ・ブッシュ Jr: 元米大統領
  16. アメリカの消費者: 過小貯蓄・過剰消費を続けた消費者
  17. Alan Greenspan: 元FRB議長
  18. ヘンリー・ポールソン Jr: 元財務長官
  19. David Lereah: 住宅市場のバラ色の未来を語り続けたNational Association of Realtorsチーフ・エコノミスト
  20. Lewis S Ranieri: MBSの父
  21. David Oddsson: 破綻したアイスランド元首相
  22. Frederic Goodwin: 世界最悪の銀行家と言われたRBS元CEO
  23. ビル・クリントン: 元米大統領
  24. 温家宝: 元中国首相
  25. Burton Jablin: 住宅バブルを煽ったHGTV社長

まず気づくのは、ランキングの下位だ。
ここには、危機の原因というにはあまりにも遠い人たちや、小者の名前が並んでいる。
温家宝元首相は、低利の資金を米市場に供給した中国を代表して候補とされたが、それを責めるのはいかがなものか。
それは投票者も理解していたようだ。
この理屈がまかり通るとなれば、次に米国に金融危機が起こった時の犯人は黒田総裁ということになるのかもしれない。
もっとも、10年前の中国とその後の日本では状況が違うから、実際そう言われるようになるのかもしれない。


上位には無能な金融監督者、詐欺やルール違反をした者、金融機関を破綻に導いた無能な経営者が並ぶ。
このうち、無能だから犯人にされた人たちは心外だろう。
しかし、経営者・責任者とは結果責任を負う立場なのだからしかたがない。

上位で気づくのは、金融監督者2名を除けば、いずれも民間人であるということだ。
サブプライム/リーマン危機とは住宅バブルであり、金融監督・金融政策の緩みがあったとは言え、その本質は民間が生み出したバブルと崩壊であったのだ。

「100年に1度」の危機が米経済を襲った時、FRBは何でも行うという姿勢を示し、非伝統的金融政策を実施した。
それは危機対応としてはうまく機能したが、経済・市場は《依存症》に陥ることとなった。
結局、米国の量的緩和政策は(他の政策が十分に行われず孤軍奮闘となったこともあり)当初のQEだけでは終えることができず、QE3まで数えることになった。
3度にわたるQEは、民間の過剰債務をFRBが肩代わりするという意味合いがあった。
民間ならば過剰債務はリスク増大をもたらすが、FRBならばその度合いははるかに小さい。
そして、過去9-10年の経済・市場の推移を見る限り、それは功を奏したと言えるだろう。

しかし、量的緩和政策には代償・副作用も存在する。
(もしも存在しないなら、当の昔から万国で行われているはずだ。)
だからFRBは金融政策正常化を決め、これまで順調に進んでいるが、危機前に元通りというにはほど遠い。
(完全に元通りにする必要はないが、あまりにも危機前とは異なるFRB・金融政策が続いている。)

リーマン危機から10年を迎え、メディアは識者に「再び危機は起こりうるのか」と愚かな質問をする。
世界が滅亡しない限り、危機とは必ず起こりうるものなのに、そんなことを聞いてどうなるのか。
しかし、気の回る回答者は少しばかり意味のある回答をする。
「危機は起こりうるが、リーマン危機と同じタイプの危機が起こる可能性は小さい」と。
民間の過剰債務の一部はFRBが肩代わりするなど、デレバレッジが進んでいるからだ。

社会全体・世界全体の債務はリーマン危機以降も増えている。
ならば、本当に危機到来のリスクが十分に減ったかどうかはわからない。
もしも次の米景気後退期がいつものように《危機》に類するものになると、犯人リストの順位は大きく変わるのかもしれない。
長い金融緩和で隠されてきたさまざまな不正が今後発覚し、その犯人たちがリストに入ることになるだろう。
それと同じように、今度はリストの上位の方に、良かれと思って民間の債務を肩代わりした人たちが入ってしまうのではないか。


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