ジョセフ・スティグリッツ

 

スティグリッツ:趨勢的停滞論は誤り、言い訳

執筆:

ジョセフ・スティグリッツ教授が、趨勢的停滞論を厳しく批判している。
リーマン危機後を振り返り、オバマ政権の失策を解説した。


「2008年の(経済)回復の責任を負った人たちは、趨勢的停滞論というアイデアが魅力的であることに気づいた。
自分たちが速やかで力強い回復を達成できない状況を説明してくれるからだ。
経済がぐずつくにしたがい、このアイデアが復活した:
提唱者らは、私たちのせいじゃない、私たちはやれることをやっている、と示唆した。」

スティグリッツ教授がProject Syndicateに書いている。
名前こそ出さないものの、教授が想定しているのはローレンス・サマーズ元財務長官らである。
21世紀の趨勢的停滞論の提唱者らに対して、趨勢的停滞論を言い訳にしていると批判している。
ハト派のエコノミストがハト派のエコノミストを批判しているのである。

スティグリッツ教授の根拠は、両者の共通の敵によって与えられた。
教授が口汚くののしるトランプ大統領と共和党の財政政策による景気浮揚だ。

2017年12月と2018年1月のような財政刺激策(当時の経済は必要としていなかった)こそ、失業率がはるかに高かった10年前に大きな効果を発揮したはずなのだ。
回復が弱かったのは『趨勢的停滞』の結果ではなかった。

スティグリッツ教授は、2008-09年のオバマ政権が十分な規模と適切な内容の財政政策を講じなかった点を問題視する。
それが、景気回復の遅さの主因であったとし、決して趨勢的停滞のためではなかったと主張している。
それを証明したのは、皮肉にもトランプ政権による不必要な財政政策だったのだ。


サブプライム/リーマン危機の主要な側面は住宅バブル崩壊であった。
バブルが弾けたことで多くの人が家を失い、職を失った。
米社会の格差は大きく拡大してしまった。
スティグリッツ教授は、この状態を押し戻すために、財政政策による需要拡大と金持ちから大多数への再配分を実現する強力な政策が必要だったと考えている。
こうした問題意識に対して、趨勢的停滞論はあまり後押しにならないかもしれない。
趨勢的停滞を認めることは、半ば多くを諦めるようなところがある。

スティグリッツ教授の財政政策好きは一貫している。
問題を抱えた経済に対して緊縮を強いることには反対だ。
財政悪化が著しい国に対しても、緊縮財政を強いるべきでないと主張してきた。
フィスカル・スペースがほとんどない日本に対しては事実上のヘリコプター・マネーさえ提案して人々を驚かしたこともある。
教授は、なるべく多くの人が中身のある幸福を享受することが重要だと考えている。

趨勢的停滞論とは誤った経済政策に対する言い訳にすぎない。
(特にトランプと共和党内の協力者の下の米国では)私たちの政策を決める自己中心・近視眼が克服されない限り、少数でなく大多数に奉仕する経済は不可能な夢のままだ。
たとえGDPが増えたところで、大多数の市民の所得はたいして増えない。


 - 海外経済 , ,