加藤出氏:日銀は福井・白川時代に回帰した

東短リサーチの加藤出氏が、日銀金融政策の実現可能性と目的の妥当性について疑問を呈している。
日銀がもくろむようなことは起こらないし、起これば国民が不幸になりかねないと示唆した。

「レッド・オーシャン(競争があまりに激しくて血の海になっているような市場)が外食だけでなく至るところ日本には存在する。
超低金利であるがゆえにレッド・オーシャンがあちこちに続いている。
非常に薄利多売で、生産性が低いという言い方もできるかもしれない。
利益率が非常に低いビジネスが日本中にある。」


加藤氏が証券アナリスト協会主催の講演会で語った。
金融緩和の効果とは景気刺激というような前向きなものばかりではない。
あまりにも強力な金融緩和はビジネスの世界から資本コストの概念を取り去ってしまう。
資本コストによる歯止めが効かないからギリギリまで安売りが起こり、過当競争に陥る。
いつまでたってもゾンビ企業にレッド・カードが出されない。
安売りが市場競争のルールになってしまえば、なかなか賃上げも進まない。

日本の文脈で金融緩和がインフレを引き起こすという見通しは本当に正しいのか。
加藤氏は日本社会においてもすでにインフレ期待は十分に醸成されていると指摘する。
しかし、期待が現実に転化するとは限らない。

「生涯所得が増えていく、上振れしていくという自信のある人は、インフレになると言われれば、今のうちに何か買っておこうという発想になるだろう。
しかし、生涯所得があまり伸びていくイメージのない多くの人が一部の品目の値上がりを見ると、自分の実質生涯所得が減ると心配する人が多いのではないか。
つまり、インフレに対して生活防衛的になるというのは極めて合理的な反応なのではないか。」

加藤氏はこの論点が7月の日銀「展望レポート」に書かれていると紹介し、さらには福井総裁時代の2006年、白川総裁時代の2012年にも指摘されていたと解説した。


今回の展望レポートで言っている話は事実上、福井・白川時代に戻っている。
これほど大胆な緩和策を5年間やって2006年の説明の正しさを再認識したというかなり厳しい状況だ。

加藤氏は「展望レポート」の記述から日銀「事務方」の反省の様子を読み取っている。
逆に言えば、「事務方」以外が理解していない可能性を示唆したものだろう。

では、その「事務方」以外の人たちは2%物価目標の生活実感を理解した上でリフレ政策を行っているのだろうか。
加藤氏は物価上昇を実現するために重要な費目である家賃を含むサービス物価について日米の差を紹介している。
6月時点の住居家賃・帰属家賃(前年同月比)は日本がそれぞれ-0.1%、-0.2%なのに対し、米国は3.6%、3.4%だという。
サービス価格の上昇は公共サービスも例外ではない。
たとえば、過去20年の地下鉄初乗り料金の上昇率は東京が6.2%、ニューヨークが83%だという。

この大きな差から読み取らなければいけないことが2つある:

後者の疑問については奇しくも安倍政権がお墨付きを与えているように感じられる。
菅官房長官は携帯電話の料金について4割程度下げる余地があると発言した。
もちろんデフレ的な値下げを促すのには、市場で十分な競争が行われていないという思いがあったのだろう。
しかし、交通料金などはそれこそ寡占・独占が成立している市場の話だ。
ある面、通信事業との類似性がなくもない。
企業努力でもっと下げろと言うのか、それともニューヨークの地下鉄なみに料金を上げろと言うのか。
政府・日銀はすでに国民のために何を求めるべきかについて、統一的な考えを失っているのではないか。


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