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ジェレミー・グランサム:ミルトン・フリードマンの狭量
2018年8月29日

大手投資会社GMOの共同創業者Jeremy Grantham氏が、米社会に絶望しそうだ。
資本主義や経済学が社会の失敗を助長し、それが国境を越えて世界に広まりつつあるという。


1万年前、いやわずか100年前でも、この問題は小さいか存在しなかった。
今日、これは危機に発展すべく加速している。

グランサム氏がGMO White Paperで危機感をあらわにした。
同氏が問題視するのは気候変動、人口増加、環境悪化、それにともなう食料問題だ。
投資家がこうした論点を中心に据えて議論するのはやや違和感がなくもない。
しかし、グランサム氏の場合、これまでも再生可能エネルギーなどの分野に注力した投資を行ってきている。
同氏にとっては、これら問題は最重要課題なのだ。

資本主義と主流経済学の欠陥

そして、投資家として、資本主義や経済学がこうした問題に対処できない欠陥を有していると指摘する。

「資本主義と主流経済学は単純にこれら問題を扱うことができない。
主流経済学は自然資本を無視している。」

日本にはかつて社会的共通資本の経済学を築いた宇沢弘文という経済学者がいた。
米国でも活躍し高く評価された学者だったが、その評価は主に社会的共通資本以外に向けられたものだった。
宇沢の経済学は、経済学において新たな分野を切り開くものであり、ノーベル経済学賞にふさわしいもののはずだったが、実現しなかった。
ノーベル経済学賞は《ノーベル経済学賞》と揶揄されるとおり、米学界のもちまわりの色彩が強い。
米社会・学会から好まれない経済学が受賞する話にはなりにくかったのだろう。

魂を売り渡すビジネス・パーソンたち

現実の米社会で起こっていることを、グランサム氏は農民と悪魔の喩えで説明している。
貧困にあえぐ農民に悪魔は100年間の契約を持ちかける。
「この契約書にサインして魂(Soul)をくれたら、あなたの利益を3倍にしよう。」
困窮する農民にはサイン以外の選択肢はなく、契約は成立した。
ところが、契約書にはとても小さな字で書かれた脚注があり、脚注21には毎年1%ずつ土地(Soil)を失うと規定されていた。
果たして、農民とその子孫は100年ですべてを失った。

グランサム氏によれば、農民の典型はMBAだという。
サインをすれば魂を失ったビジネス・パーソンとなれるが、結局は滅びの道を歩くことになる。
サインをしなければドロップ・アウトするしかない。

主流経済学が失敗を助長する

こうした資本主義社会を形成するのに、グランサム氏は主流経済学が一役買ったと指摘し、「現代資本主義の守護聖人」ミルトン・フリードマンが語った有名な言葉を紹介している:

「企業の社会的責任は1つのみであり、それは利益の最大化だ。」

グランサム氏は1938年英国生まれ、1964年に渡米した。
当時は(公民権を除けば)米国における社会契約がうまく機能した時代だったと回想している。
ところが、暴君と化した資本主義がこのメカニズムを阻害してきたという。

割引率という暴君

「資本主義は超長期的に見て大きな問題を抱えている。
割引率という暴君のためだ。
25年を超えて企業に起こることはまったく重要ではなくなってしまう。
そうしたことは孫には何の価値もないということだ。」

経営者・投資家が企業・事業の財務計画を作成・吟味する時、真剣に緻密に注力するのは高々3-5年と言ったところだろう。
心の中では3年後でさえ《鬼が笑う》と考えている。
25年先など意識にさえ入っていない。
人間・組織は意識にないものには対処できない。

割引率はさらにそれを助長する。
6%を10年乗じると79%となり、10年後の効果は現在価値では1/1.79しか効いてこない。
これが25年となると1/4.29だ。
割引率は遠い話の重要度を急速に減じてしまう。

米社会の失敗が伝染する

米社会はどんどん内向きになり、企業も外部性について適切に対処できない。
自社のB/S・P/Lに関係ないこと、自国の(短期的)国益にプラスにならないことには何の価値も置けない社会が出来上がっている。
グランサム氏の悲観はいつになく深い。

米国は世界恐慌以来享受してきた安定的で理に適った社会を失う可能性が高い。
実際すでに失いつつある。
リスクは米国境を越えて広まり、アフリカに最悪の影響を及ぼし、大陸全体を破綻させる脅威となるかもしれない。


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