ロバート・シラー:戦争、利上げ、不況

経済の実証研究の第1人者ロバート・シラー教授が、好調な米経済の要因を探している。
1950年の好景気を振り返り、高い四半期GDPの原因を見いだしている。


「大統領による強い経済についての解釈をあまり信じてはいけない。
大統領は自身の政策に集中し、他の多くの種類の要因を無視している
何か、おそらくさまざまな環境、ナラティブ、感情が、いつもよりも少し消費者支出を押し上げている。」

シラー教授がThe New York Timesへの寄稿で書いている。
教授はこれまでトランプ大統領に対してスクエアな姿勢を示してきた。
経済政策の理論的な誤りを指摘することはあっても、逆に大統領が生み出すナラティブが経済にプラスに働きうるとも指摘していた。
その教授が、トランプ大統領の自画自賛にバツをつけている。

7月27日公表の米第2四半期GDP速報値は年率換算で前期比4.1%増となった。
トランプ大統領はこの数字を持続可能な数字と述べ、米経済の歴史的立て直しを成し遂げたと宣言した。
GDPや失業率の数字が極めて良好なのは事実だ。
しかし、シラー教授によれば、これを根本的な変化の証拠と言うのは、統計の重要度を過大評価することになるという。

教授は、いつものように歴史を紐解いて説明する。
四半期GDP統計が始まって以来その数字が最大となったのは、トルーマン大統領時代の1950年第4四半期の13.4%だったのだという。
1950年は1929年以来で最大の住宅建設ブームとなり、それは2006年前後の住宅ブームでも破られていない。
ところが、この空前の好景気を経済政策が引き起こしたとは考えにくいのだという。


「実際、1950年の好景気の根本的原因はいいニュースではなく悪いニュースであった可能性が高い。
思えば、1949年8月29日ソ連が初めて原爆を爆発させ、米国による短期間の核兵器独占が終わった。」

1950年6月には朝鮮戦争も勃発する。
確かに1950年は決していい年ではない。
まだ第2次大戦の記憶が生々しい米国民にとって、世界情勢の不安は制約の多いいやな時代の再来であったはずだ。
シラー教授は、1950年の米国民が「恐怖買い」に走ったと解説する。
いやな時代を予感し、米国民が住宅購入を始めとして支出を増やしたというのだ。
つまり、買えるうちに買えというわけだ。

シラー教授は、恐怖の程度こそ違え、今日似たようなことが起こっているという。
貿易戦争が激化する前に輸出入を前倒ししておこうという動きが、足元のGDPを押し上げている。
また、FRBの利上げという恐怖が、人々を住宅購入に向かわせている。
これらは決してトランプ大統領の手柄ではあるまい。

シラー教授はフェアな人物だ。
トランプ大統領の手柄も挙げている。

「今日新しい車を買おうという衝動は、けばけばしい生活の象徴であるトランプ氏のデモ効果によってわずかに強まっているかもしれない。」

これを誉め言葉と取るのは難しい。
「わずかに」(subtly)という副詞は、大統領の手柄を否定している表れだろう。

確かに1950年はすばらしい成長を遂げたが、いい年ではなかった。
・・・実際、この強い経済の物語がすぐにひっくり返り、突然不況がやってくる可能性だってある。


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