ブラッドフォード・デロング:FRBが学ぶべき4つの教訓

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UC BerkeleyのJ. Bradford DeLong教授がFRBの政策運営を批判している。
FRBは歴史の教訓を学び、過去に縛られない対応をすべきと主張している。


「最も効果的な、したがって最も信頼性の高い金融政策とは、歴史の教訓だけでなく、長く続けてきた前提を見直す意思を反映したものである。」

デロング教授がProject Syndicateへの寄稿で、ずいぶんと上から目線で書いている。
もちろん高名な学者だからこうした書き方をしても許されるのだが、こうした精神論を持ち込まなければもっと良い論文だったはずだ。
教授は過去を回顧した上で、《今回は違う》が多くの場合間違いとの「歴史の教訓」を示している。
ところが、自分の提案のためならば過去継承してきた前提を取り払うべきというから、精神論が色あせてしまう。

以下、デロング教授が指摘したまともな部分について紹介しよう。
過去20年間の経済の変遷からFRBにとっての4つの教訓を抽出し、FRBがそれら教訓を生かしていないと批判している。


  • 現在の金利状況を前提とすると、物価目標は2%でなく4%であるべき。
    不況が来れば5%超の利下げが必要なのに、FF金利は1.75-2.00%しかない。
    仮に現状が、実質FF金利0%+インフレ2%=名目FF金利2% だとすると、インフレを4%にすれば名目金利も4%になる。
    つまり、利下げ余地が大きくなるとの考えだ。
  • フィリップス曲線の関係が弱まっている。
    期待インフレと足元のインフレ、足元の失業に対する将来のインフレの感度が1970-80年代より低下している。
  • イールド・カーブ逆転が金融引き締めの行き過ぎを示している。
    「FRBが(FF金利を)オーバーシュートさせ景気後退の引き金を引いてしまう場合の利下げを予想し長期米国債を買い上がっている人たちがいる。
    その人たちは、ほどなく景気後退が供給過剰を生み出し投資計画が見送られ始めるのを今か今かと待っている。」
  • 次の大きな危機はインフレをともなうものではなく、デフレ的なものだ。
    1970年代までは危機(石油ショック)はインフレ的だった。
    次の危機は1980年代以降(1980-90年代のS&L危機、1997年アジア危機、2000年ドットコム崩壊、2001年テロリストの攻撃、2007年サブプライム崩壊、2010年欧州債務危機)と同様デフレ的になる。

重要な観点が並んでいて興味深い。
特に4点目の指摘は、デロング教授が大きな金融市場のサイクルの転換を認めていない表れだ。
趨勢的停滞論やハト派の議論に代表されるように、停滞はまだ継続しており、リスクがデフレ側に偏っているという見立てである。
一方で、長期金利に象徴されるように、経済の超長期のサイクルが転換し始めたと見る人たちも多い。
そういう人たちは、危機とは言わないまでも、1970年代までのようにインフレや金利が上昇するサイクルに入ったと見ている。

物価目標を4%とすべきとの提案も見方は大きく分かれるだろう。
物価目標を4%とすればFRBの金融政策ははるかに緩和的に維持されることになる。
これは米国においては物価上昇をもたらすかもしれないが、その代わりに名目金利は低いままだ。
今のままなら物価は上昇しないかもしれないが、名目金利は上げておける。
将来の実質ベースの利下げ幅はたいして変わらないかもしれない。
こうした思考実験はワラス中立性の含意などとも擦り合っているはずだ。


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