日本に対するしつこい無知と誤解

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BloombergのコラムニストAndy Mukherjee氏が、日本にヘリコプター・マネーの実験を奨めている。
この人に限ったことではないが、日本を知らないと思われる人たちのステレオタイプな議論がそこに見える。


「強力な金融緩和のおかげで、日本経済の命脈はつながっているが、ひどい副作用が伴っている。」

そのコラムの書き出しである。
足元の日本経済に金融緩和が寄与していることも、その金融緩和に副作用がともなうことも事実だろう。
しかし、日本経済の金融緩和への依存は「命脈」というほど深刻なものだろうか。
追加緩和ができないことで「命脈」が切れるとでも言うのだろうか。

このコラムニストはインド生まれ。
インドやシンガポールでのメディア勤務を経て、Reuters、Bloombergとコラムニストを務めているようだ。
この人はどれだけ日本の経済、社会を知っているのだろうかと首を捻る。

白川 前日銀総裁は以前、海外からの来客が漏らす日本についての感想を紹介していた。

「東京の街並みの清潔さに象徴される日本の社会の豊かさと『デフレに沈む国』というイメージのギャップを口にすることが多い。」

日本にはGDP成長率、ましてや物価上昇率では測れない豊かさがある。
失業率は欧州などと比べ極めてはるかに低く、社会保障にしても米国と比べればまだましだ。
日本政府も日銀も、日本経済の状態は改善したと胸を張っている。
このコラムニストは何を根拠に日本が危機にあるかのように判断したのだろう。
そこにまったく触れていないところが、まず、外国人にありがちなステレオタイプだ。

コラムは次にこう説いている。

「単純な質問から始めるべきだろう。」

その次には、その「単純な質問」が続く。


「日本銀行は紙幣を刷るのを完全にやめてみたらどうだろうか。
日銀の供給でマネタリーベースは5年で3倍に増えたものの、待ち望まれる物価上昇率2%が達成される兆しはない。
現金を根こそぎ廃止する時期ではないだろうか。」

この提案のどこが「単純な質問」なのだろう。
本来あってしかるべき最も「単純な質問」とは、GDPやインフレ率だけに縛られない経済運営であろう。
ところが、このコラムニストの「単純」とは紙幣廃止なのだ。
その目的とは、どうやら2%物価目標達成にあるようだ。

言いたいことはわからなくもない。
紙幣をやめてデジタル通貨に切り換えれば、現金に対してマイナス金利を付せるようになる。
これは日本経済をゼロ金利制約から解放してくれる。
つまり、現金を狙い撃ちにした追加緩和が可能になるのだ。
このコラムニストは、あわせてヘリコプター・マネーを奨めている。

無知な外国人にありがちな、手段の目的化である。
経済政策の目的は国民の幸福なのに、金融緩和や物価上昇が目的になってしまっている。
こうした誤りを犯す原因には3つの思い込みがあるように思う。

  • 政策によって物価を上昇させることができる
  • その物価上昇が悪性(コスト・プッシュや財政悪化)によるものでなく良性(ディマンド・プル)である
  • インフレ上昇と実質金利低下が消費・投資を喚起する

こうした3つの条件が満たされているような社会・経済ではリフレは有効に働くかもしれない。
しかし、日本については過去5年の社会実験でいずれも疑問符がついている。
この上さらに通貨のデジタル化、ヘリコプター・マネーという2つの突飛な社会実験に取り組めと言われても、噴飯ものの暴論としか言いようがない。
マイナス金利よりヘリコプター・マネーの方が、はるかに副作用は大きいはずだ。


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