リチャード・クー:異次元緩和は最初から間違い

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野村総研のリチャード・クー氏が、日銀の異次元緩和について痛烈なダメ出しをしている。
これまではオブラートに包んでの論評が多かったクー氏だが、この日は存分に日銀にNoを突き付けている。


私は初めから、日銀が始める前から言っていたが、この政策には機能する理由がない。
金融緩和政策が機能するためには誰か借り手が必要だ。
借り手がいないところで利下げしても、流動性や銀行システムには何も起こらない。

クー氏がBloombergに語った。
クー氏は、異次元緩和の理論的背景が現実と遊離した机上の空論だったと示唆し、物価目標について5年が経ってもほとんど何も起こらなかったと指摘した。

「学校で教える経済学では借り手が存在することを前提としている。
民間セクターは利潤の最大化を図り、利下げすれば何かが起こるとされている。
これが日銀が異次元政策を始めた根拠だ。」

金融緩和が、中央銀行・市中銀行・借り手と連鎖することによって効果を発するとすれば、借り手がいない限り何も起こらない。
マネタリー・ベースこそ増やしても、マネー・サプライは増えることがない。
クー氏は、日本の四半世紀について、2つの理由から借り手が存在しなかったと回顧する。

  • バランスシート不況
    「一国の経済では、誰かが貯蓄したら誰かが借金をすべきなのに、過去25年の日本では(バブルの後遺症から)みんながバランスシートを修復するだけで誰も借りなかった。」
  • 追われる経済の問題
    「特に値段のはる製品の資本収益率は、母国より海外で作った方が高くなることが多い。」
    すると、企業は国内で借入・投資を行わなくなる。

クー氏は、米経済も例外ではないという。
2008年までは『追われる経済の問題』だけだったが、2008年バランスシート不況がそれに加わったという。
こうした状況では、問題の解決のために金融政策だけに頼ることは誤りだ。


「本当に借り手がいなくなれば、中央銀行の政策はほとんど効果がなくなる。
・・・日銀は大衆に対し何が起こっているのかを率直に説明すべきだ。」

その上で、長期的・短期的施策を講じるべきという。
長期的な施策としては、母国での資本収益率の向上であり、このためには規制緩和・減税などが考えられる。
母国での資本収益率が改善すれば、「追われる経済の問題」は緩和するだろうからだ。
しかし、これが実を結ぶには時間がかかる。
そこで、短期的には、政府が借り手になり、経済を動かす必要があるという。
しかし、これには財政悪化という副作用がともなう。
クー氏は主張する。

「民間セクターが借金しなくなると、世界中が経験しているように、金利はばからしいほど下がる。
政府は十分に高い資本収益率のプロジェクトを探し、プロジェクトの採算を確保することで、将来納税者に負担を回さないですむはずだ。」

これもまた机上の空論だろう。
そもそも民間が見いだせなかった高収益プロジェクトを政治家や官僚が見いだせるのか。
彼らにそれに十分な能力・モラルがあるのか。
もしもあるなら、なぜ過去四半世紀それをやらなかったのか。
クー氏の言うようなプロジェクトが皆無とは言わないが、決して多くはないというのが第一印象だろう。

コロンビア大学のJeffrey D. Sachs教授は以前、財政問題について、過去の日本を考えれば楽観論はあたらないと言っていた。


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