【輪郭】イールド・カーブをめぐる戦い

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2%物価目標の達成遅れが確実となったことで、日銀は長期戦にむけたさらなる備えを余儀なくされている。
本日公表された「展望レポート」によれば、2%物価目標(消費増税分を除く)の達成予想時期は、4月時点の予想である2019年頃から今回2021年以降にまで先延ばしされた。(浜町SCI)


黒田総裁は金融政策決定会合後の会見の中で、想定以上に金融緩和を続けることになったとし、2つの方策を講じたと話した。

  • 政策金利のフォワードガイダンス導入
    現状の政策金利(短期-0.1%、長期0.0%)を当面維持するとの見通しが述べられた。
  • 政策の持続性を高めるような諸施策
    • 長期金利ターゲットはこれまで上下0.1%の幅をもたせる運用となっていたが、これを上下0.2%の幅に拡大する。
    • ETF・J-REITの買入れ額に柔軟性を持たせる。
    • マイナス金利維持に支障がない限り、適用対象の当座預金残高を減らす。

また、最近のNT倍率の上昇に配慮したのか、ETFの銘柄別買入れ額を見直し、TOPIX連動の買入れ額を拡大するという。

ほぼ予想どおりの結果だった。
かつてはサプライズを愛用した黒田総裁だけに、今さらフォワード・ガイダンスを導入したところで、どれだけ状況が変化するかはわからない。
弊社が事前に予想したとおり、日銀は市場に金利上昇期待を形成させないようなスタンスを徹底している。
これは当面の間は受け入れられるかもしれないが、持続するかどうかはわからない。
イールド・カーブ・コントロール(YCC)存続をかけて、投機筋と日銀の戦いが始まる可能性は否定しきれない。

そのきっかけとなりうる、市場期待を動かす要因とは何だろうか。


  • 金利低下期待: 国内外の景気後退・市場下落など
  • 金利上昇期待: 日本での政権交代、(軽度)金融システム不安、米国等からの異次元緩和への批判

どちらもいいシナリオとは言えないが、ここでは多くの人が心配する金利上昇シナリオを検討しよう。
いずれも起こるとすれば10年も待ってくれなさそうだ。
こうした事象は実現しなくても、市場が予感しただけで、長期金利が上昇を始める。
結局、上下0.2%の幅の中でやはり金利は上方に寄りやすくなるのではないか。
市場がYCCを試しに行けば、+0.2%近くまで上昇するだろうし、そうなれば日銀が指値オペで応戦することになる。

幅が0.1%とされていた今月、日銀は23、27、30日に指値オペに迫られている。
月3度の指値オペは初めてで、30日のオペは1.6兆円と規模も最大となった。
つまり、市場がYCCを試しにかかると、日銀への負担は大きくなる。

もちろん、指値オペが可能なうちは長期金利は0.2%を超えて上昇しえない。
しかし、日銀が指値オペの頻発のために国債買入れ額を増やさざるをえなくなれば、買い入れることのできる玉の枯渇が速まる。
結局、国債市場は死に絶え、日本の長期金利は市場性のある金利ではなくなり、誰も見向きしなくなる。
誰も注目しない金利に金融緩和効果を求めるのには無理があり、長期金利ターゲットはその意味を失う。
日銀はこれまで(将来の損を覚悟して)莫大な国債を買い入れてきたが、その意味がなくなってしまうのである。

もう一度、金利上昇期待を生みうる事象の例を眺めよう。
日本での政権交代、(軽度)金融システム不安、米国等からの異次元緩和への批判。
やはり、10年間低金利が続くと考えるのは分が悪そうだ。
そうだとすれば、そう遠くないうちに、市場はYCCを試しにかかるのではないか。

それを逃れる唯一の道は、おそらく景気後退・市場下落なのではないか。
ただし、これはインフレ低下を通じて、実質金利上昇をもたらす。
つまり、現状の金融緩和を続けることは難しい。



山田泰史山田 泰史 横浜銀行、クレディスイスファーストボストン、みずほ証券、投資ファンド、電機メーカーを経て浜町SCI調査部所属。東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修了 理学修士、ミシガン大学修士課程修了 MBA、公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

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