河野龍太郎氏:通貨戦争のリスク

BNPパリバの河野龍太郎氏が、貿易戦争が世界経済に与える影響を推し量っている。
さらに、通貨戦争が再発するリスクにも言及している。


貿易戦争が世界的な経済収縮のスパイラルをもたらし、世界恐慌につながったと言うと、それは相当に誇張がある。

河野氏がReutersへの寄稿で、冷静に歴史を振り返っている。
トランプ大統領が仕掛ける貿易摩擦が貿易戦争に発展するとの懸念が高まっている。
なぜ人々が貿易戦争を心配するかと言えば、大恐慌の時代に貿易戦争が世界の貿易を縮小させたからだ。
河野氏は、貿易戦争が再び大恐慌をもたらすとの悲観シナリオは行き過ぎと指摘する。

実際、貿易戦争を本格化させた米ホーリー・スムート法の成立は1930年だ。
一方、ウォール街の大暴落は1929年10月にすでに起こっており、貿易戦争と大恐慌に因果関係を求めるのには無理がある。
大恐慌をさらに悪化させたというのが妥当な見方ではないか。

河野氏は、保護貿易が大恐慌を招いたのかとの問いに対して次のように答えている。

「大恐慌に匹敵するようなワーストケース(最悪の事態)の可能性は小さいが、不況といったバッドケース(悪い事態)は十分に起こり得る。」

現在の市場の見方をよく反映した解答ではないか。
もしもバッドケースも起こらないなら、誰も心配していないはずだ。
逆に、バッドケース以上のことが高確率で起こるなら、市場はもっと荒れているはずだ。

河野氏は寄稿で、もう1つの心配に言及している。


懸念されるのは、各国で再び金融緩和という事態になれば、2015年や2016年初に見られたように、再び通貨切り下げ合戦の様相を強めることである。
自然利子率の低迷が続く中、名目金利も相当に低く、金融政策の有効性は著しく低下しているが、確実な金融政策のチャンネルは自国通貨の減価である。
しかし、それはグローバルではゼロサムである。
このため、金融緩和自体が、通貨戦争を想起させ、国際金融市場の混乱を引き起こすリスクがある。

残念ながらこのシナリオについて河野氏は詳細を語っていない。
通貨安競争は歴史上繰り返し起こってきたが、この文脈で有名なのは英国が1931年から仕掛けたポンド切り下げに端を発する各国の応酬だろう。
各国が争って自国通貨安を誘導する動きは、1936年の米・英・仏による三国通貨協定まで続く。
この通貨戦争は、世界の貿易を縮小させ大恐慌下の経済をさらに悪化させたと言われる一方、通貨安が経済回復に寄与したとの解釈もある。
後者は日本の円安論者も主張するポイントだ。

通貨安競争が今後、国際社会で許容されるのかどうかはわからない。
しかし、そうなるにしても、何らかの歯止めが存在することが条件となろう。
かつては、通貨安や金融緩和がインフレを引き起こし、高インフレが通貨安・金融緩和のブレーキを踏む構図が存在した。
ところが、現在の先進国経済ではそれが見いだしにくい。

特に日本はブレーキの要らないドライブをしているような状態にある。
こうした状況では、金融緩和の名を借りた通貨安誘導が際限なく継続してしまう可能性もある。
それが資産市場に与える影響は自明であろう。


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