河野龍太郎氏:低インフレの本当の原因

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BNPパリバの河野龍太郎氏が、日本の低インフレの原因を分析している。
7月の日銀政策決定会合や「展望リポート」で本質的な変化が起こる可能性は小さいという。


先月の日銀政策決定会合後、黒田総裁が日本の低インフレについて言及した。
物価がなかなか上がらない状況について、今月末の「展望リポート」に向けて分析・議論を深めていくと語った。
これを先回りするように、市場関係者がさかんに低インフレについて原因を探っている。

この原因として河野氏が第一に挙げたのが「先進各国に共通する要因である労働分配率の低下傾向」だ。
言葉は悪いが、筆者のような貧乏人は収入が少しでも増えれば、すぐに消費に回してしまう。
自身のニーズに比べてお金がないのだから仕方がない。
ところが、労働分配率が低下すると、そうした貧乏な労働者の分け前はあまり増えず、消費も増えにくい。
一方、読者のように豊かな人は、そもそも収入も高く、貯蓄も厚く保有している。
労働分配率が低下すれば資本等への分配が増え、豊かな人の取り分が増える。
ところが、こういう人たちはすでにお金持ちで不自由のない消費を続けてきている。
だから、さらに収入が増えたところで消費を増やさない。
消費が増えないからインフレが進みにくい。

この現象を河野氏はマクロ経済的視点から次のように表現し直している。

貯蓄が積み上がり、設備投資で吸収することが難しくなる。
理論的には、貯蓄と投資を均衡させる自然利子率が負の領域まで低下する。
つまり、長期停滞に陥るため、その中で完全雇用に到達するには、バブルか、大幅な経常黒字か、あるいは大幅な財政赤字を醸成するしかない。


金融政策にゼロ金利制約がある以上、自然利子率(≒中立金利)が負に低下してしまえば、金融緩和による浮揚が不可能になってしまう。
金融政策が効かない中で雇用を促すには、根拠なき熱狂で経済が拡大するか、外需を大量に取り込むか、大規模な財政刺激策を講じるしかない。
日本でバブルを感じさせるところは今のところないから、日本経済の完全雇用は経常黒字と財政赤字によってもたらされたことになる。
経常黒字を支えたのが金融緩和による通貨安誘導であったと考えれば、日本は金融・財政政策による「高圧経済戦略」で今があることになる。

ところが、この政策ミックスをもってしても満足のいくインフレを引き起こすことはできていない。
労働分配率も一因だが、賃金の上がりにくさにも注意が必要だ。
河野氏は、高齢者・主婦の労働参加、低賃金の外国人労働の急増が、賃金上昇を阻害する要因になっているという。
皮肉なことに政府・日銀の高圧経済政策は、消費を増やさない高所得者を潤し、消費を増やしたいと願っている低所得者には雇用の機会だけを与えた。
もちろん、雇用は増えているのだからプラスはプラスだろうが、労働者は将来の安心が見通せず、財布の紐を緩めようとはしない。

河野氏は7月の日銀政策決定会合の落としどころを深読みする。

「今回の物価検証の主たる理由は、インフレ上昇が遅れる中で、政策委員会内の追加緩和論をけん制することである。」

河野氏は、日銀が現状追加緩和を考えていないのと同様、金融政策正常化に目を向けるとも考えていない。
それが「正論」としながらも、それが起こるとは考えていないのだ。
結果、「『展望リポート』では、踏み込んだ分析はせず、一般論に終始する」だろうという。
本質的な議論をすれば、政府の政策を批判することになってしまうし、繊細な問題を孕む外国人労働などでは言及を避ける可能性が高いからだ。


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