クルーグマン:ケインズを理解できない保守

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ポール・クルーグマン教授が、ケインジアンという言葉を曲解して批判する右派に対してツイッターで反論している。
トランプ政権や共和党の財政政策がケインズ主義とは真逆のものであると指摘した。


「『ケインジアン』という言葉は『社会主義者』と同様、それが拡張的金融政策だろうが貧しい人の医療補助だろうが、自分の嫌いなものを右派が語る時の侮蔑語となった点に同意する。」

クルーグマン教授が昨日ツイートした。
何に対して「同意」したかと言えばThe Washington Postの記事に対してだ。
同記事では、保守派がケインズ主義を曲解し、リベラル派や誤ったケインズ主義像に対していい加減な批判を展開していると非難している。
クルーグマン教授は、右派の無知を嗤う。

「奇妙なのは、ケインズ主義の実際の中身を見いだすことは難しくないということだ。
多くの入門レベルの教科書に書いてある。」

クルーグマン教授は、トランプ政権と共和党の財政政策がケインズ主義とはまったく異なると指摘する。
同政策は「経済がいい時に財政赤字を積み上げる」ものだからだ。
教授は、ケインズの論文集から「景気の制御」について書いた段落を引用する。

「政府に不況期の債務拡大を勧めうるのと同様、同じ理由で逆の政策も勧めうる。
総需要は債務による支出で増え、税収による債務返済とともに減少する。
先延ばしのできない大きな軍事費が我が国の財政システムに過大な歪みを及ぼし、債務返済を難しくしている。
それでも、当面は増税し補助をやめ、財務大臣は軍事費の大部分を税収で賄うべきだと私は思う。
・・・不況期ではなく好況期こそ財務省が緊縮すべき正しいタイミングなのだ。」


財政政策は基本的には経済安定化政策であろう。
不況期に景気を刺激する一方、好況期には景気を冷やすべきものだ。
それなのに、政治屋やその取り巻きは拡張ばかりに興味を示しがちだ。
そこにはバラマキ、利益誘導や忖度が満ち満ちている。
だから、財政には出す時も取り戻す時も規律が必要だ。

財政はいつ引き締めるべきなのだろう。
仮に趨勢的停滞に陥った経済なら、少し回復したとしても刺激策を継続すべきとの考えはありうる。
経済はまだまだトレンド・レベルまで回復していないとの見立てに基づくのだろう。
しかし、それも政府の財政状態次第だ。
財政の歪みが大きければ、ケインズが書いたように財政再建に舵を切り、過去のトレンド・レベルまでの回復をあきらめるべきかもしれない。
フィスカル・スペースがないがゆえに、経済の趨勢的なトレンド・レベル低下を受け入れる道だ。

そうだとしても、米国の進歩主義的自由主義者はすべての財政支出を諦めているわけではない。

「いまだに金利が低く、公共投資が強く望まれていることを考えれば、インフラ支出のための借金は正当化される。
(政府が)借金して法人減税を行っても(企業は)自社株買いに回るだけで、たいした効果はない。」

クルーグマン教授は、すべての拡張的財政政策に反対なわけではない。
財政政策には財政悪化という副作用がさけられないだけに、費用対効果が重要と言いたいのだ。

クルーグマン教授は今回ケインズの論文を引用した。
これはそう頻繁にあることではない。
その理由を教授はこう書いている。

「ケインズ主義は生きた思想であって老師の崇拝ではないから、私は『ケインズの言葉』にはそう注目しない。」

「生きた思想」には気を付けないといけない。
「生きた思想」にはすばらしい点も多いが、一方で仮装しやすいという問題もある。
バラマキ、利益誘導や忖度が化けた政策には厳しいチェックを入れなければならない。


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