クルーグマン:民主党左派は合理的

ポール・クルーグマン教授が「連邦賃金保証」について論じている。
この構想は進歩主義者のイマジネーションを掻き立てるもののようだ。


「アレクサンドリア・オカシオコルテスは自身を社会主義者と呼び、民主党左派を代表しているが、その政策は極めて合理的なものだ。」

クルーグマン教授がThe NY Timesのブログで自称社会主義者を擁護している。
それにしても、なぜこの複文が逆説で結ばれているのだろう。
進歩主義的自由主義者の筆頭のような教授をしても、社会主義は不合理なものとの観念があるのだろう。
ここは、長い年月の中で部分的に社会主義を取り入れてきた日欧の人間からすると不思議に感じられる。

オカシオコルテス氏は6月末、ニューヨーク州の民主党中間選挙予備選で勝利した。
約20年下院議員を務めてきた現職との戦いは注目さえされず、今中間選挙で最大の番狂わせと言われている。
何しろ当確が出た瞬間、本人が一番驚いた顔をしていたのだから。

同氏は28歳のヒスパニック系女性であり、豊かな家庭に育ったわけではない。
選挙資金はわずか300千ドル(約33百万円)だ。
選挙戦では、国民皆保険、連邦職業保証、移民・関税執行局廃止、大学学費無料化、銃規制強化などを唱えた。

クルーグマン教授がブログで論じているのは、先日ローレンス・サマーズ元財務長官が論じた連邦職業保証である。
教授自身も、このやり方が低賃金や不適切な雇用の問題に対する最善の解ではないと考えている。
求職者に必ず職を与えるというような広範な雇用保障が実現する可能性は小さいとする一方、少なくとも問題の所在にスポットライトを当ててくれていると評価もしている。
むしろ、この構想に対する批判には誤りが多いと話している。

批判の例:
「労働者に(同制度によって)より高い賃金を支給すれば、公的職業への殺到が起こり、とてもコスト高な政策になると示唆される。」


クルーグマン教授はこの批判の誤りを次のように説明した。

  • 民間の職から多くの労働者が退職しようとすれば、企業は賃上げで応じざるをえず、それが労働者を引き留める。
  • 企業は一部を自動化で対応し、値上げを行うため、需要は減少し、民間での雇用は減る。
  • しかし、この現象は最低賃金引き上げでも同じことが起こる。
    ある州が最低賃金を引き上げ、隣の州で据え置いた場合の前例を見る限り、最低賃金引き上げは雇用にほとんど影響を与えない。
  • 連邦職業保証を(最低賃金引き上げ+公的職業への採用)と捉えれば、民間から公的職業への労働者の移動はそう大きくはならない。

一方で、実現には課題も多く、クルーグマン教授は異なる手法の方が現実的と書いている。

日本で労働参加率を高めようとなると、大きな山として女性の労働参加という話になり、待機児童対策となる。
これはこれで日本の実情にあったものなのだが、米国とのアプローチの違いに驚かされる。
米国では職業訓練、マッチング、そしてカネ(賃金保証、賃金助成など)になる。
そもそも、米国では待機児童という捉え方をしていないように見える。
基本的に公的保育所など存在しないし、子どもを預けるのは保育所だけでなく、ベビー・シッターなど他のやり方も一般的だ。

米国は模倣するに値しない社会だと思う。
しかし、参考にして悪いわけはない。
日本にとっては、短期的には公立保育所を作ったり、補助金を民間保育所に出すことが解なのかもしれない。
しかし、長い目でみてこれを続ければいいのだろうか。
ここで想定するカネは賃金ではなく、保育にかかわるものだ。

なぜ、日本には民間の保育所が自然と増えないのか。
十分なリターンが得られないからかもしれない。
なぜ、リターンが得られないのか。
女性の労働参加で得られる給与が少ないのかもしれない。
最大の問題は保育なのか、賃金なのか。
そう考えると、賃金を重んじる米国流の考え方にも納得できるところがあるのである。


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