サマーズ:インフレはもはや最優先事項ではない

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ローレンス・サマーズ元財務長官(現ハーバード大学教授)が、FRBはインフレ上昇を許容してでも経済後退を招かないようにすべきと語った。
世界経済は脆弱で、景気後退に入ってしまえば十分な対処ができない可能性があるという。


金融危機前の世代で前提とされていた課題はインフレの防止だったが、それはもはや最優先事項ではなくなった。
私が考える最優先事項は健全な成長と良好な雇用だ。

サマーズ氏がBloombergで語った。
FRBは雇用の最大化と物価の安定というデュアル・マンデートを担うというのが公式のあり方だ。
以前《物価の安定》とはインフレの抑制を指していたが、リーマン危機後はインフレの喚起を指すようになった。
そしてついにFRBは2%物価目標を達成した。

サマーズ氏の発言は、私的に新たなデュアル・マンデートを呈示するようなものだ。
しかも、そこからは「インフレ」が落ち「成長」が入っている。
物価より経済成長が重要との考えである。

サマーズ氏は金融刺激策がますます難しくなっていると話す。
各国の大規模な財政刺激策で隠されてしまっているが、世界中で中立金利の低下が進んでいるからだ。
金融刺激策を講じたければ、政策金利を中立金利より低位に置かなければならない。
中立金利が低下すれば、政策金利はさらに低くせざるをえない。
しかし、あと少し下にはゼロ金利の壁が待ち構えている。

サマーズ氏は依然、趨勢的停滞が継続していると主張する。
世界経済が今成長していることで趨勢的停滞論を否定するのは早計だという。


「そこそこの経済成長でも莫大な財政刺激策なしにはありえず、これは趨勢的停滞論を支持するものだ。
私が初めて米国の趨勢的停滞に言及した2013年との比較で言えば、はるかに大きな財政刺激策が講じられ、長期金利は低く、資産価格は持続不可能なほど上昇している。
つまり、経済は自立できるような状況ではなく、趨勢的停滞論が予想した展開が起こっている。」

異例の金融・財政刺激策を必要とする経済は正常な経済とは言えない。
だから、趨勢的停滞はまだ続いているという。
ところが、多くの人がこれを否定したがる。
大規模な財政拡大と量的緩和の組み合わせは実質的なマネタイゼーションであるためだ。
趨勢的停滞を認めれば、この好ましくない政策ミックスを容認せざるを得ず、それを嫌うためだという。

「私たちはとても脆い経済の上に立っている。
景気後退に入る確率は毎年20%だ。
それが起これば、通常は500ベーシスの利下げが必要になるが、そうした余地はない。」

経済は脆弱で、景気後退に入れば打つ手が足りなくなる可能性が高い。
ここでサマーズ氏はとどめの質問を投げかける。

問題は、インフレが2%を超えて上昇するのを防ぐのか、それとも、景気後退を防ぐのかだ。
現在の経済環境から考えて、後者の景気後退は対応が困難なため大打撃になる。
政治的にはポピュリズムを生むと示唆される。
だから、そのリスクを回避する必要があり、インフレが2%を超えるリスクを甘受すべきなのだ。

ちなみに、サマーズ氏はあいかわらずトランプ政権の政策を強く非難している。
トランプ減税は、サプライ・サイドもデマンド・サイドも適切に刺激するように設計されていないという。
貿易摩擦については、現状経済に直接打撃を与えるような段階にはないとしながらも、状況は悪化しつつあり、心理的効果で不確実性が増せば深刻化しかねないと話している。


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