クルーグマン:法人減税ロジックの誤謬

ポール・クルーグマン教授が、トランプ政権・共和党の減税のロジックについて検証している。
あらためてトリクルダウンが成立しない理由を解説している。


米国がまさに法制化した減税は、歳入を減らす以外、多くを達成することはない。

クルーグマン教授がThe New York Timesのコラムで結論づけている。
教授は、減税が資本形成に及ぼす効果についてはある程度認めている。
しかし、それは政権や共和党の考えるような資本の国際移動のロジックによるものではないという。
そのロジックとはこうだ:

世界の投資家は最も高い税引後リターン率を与える国を選好する。
法人減税はそうした投資を引きつける。
外国からの投資が増えれば、リターン率は下がり、賃金は上がる。
長期的には、法人減税の恩恵は株主でなく労働者に向かう。

サプライサイド経済学が主張するトリクルダウン理論の一類型だろう。

法人税率でマネー・フローは変わるのか

クルーグマン教授は、労働者に恩恵が回る前に株主が持ち逃げしてしまうことを心配している。
実際、米国においても賃金上昇は想定ほどでなく「一般労働者の実質賃金は、税引後利益が大きく上昇した間、わずかに低下している」のだ。
しかし、これは短期的に予想された話でもある。
仮に短期的に労働者が苦しい思いをしても、長期的な約束が守られるなら可とすることもありうる。
そこで、教授はこう自問する。

「国際的資本移動は本当にそれほど税率に敏感なのか?」


クルーグマン教授はまず、UC BerkeleyのGabriel Zucman他の研究を引用する。
この研究では、多国籍企業の節税方法について調査されている。
クルーグマン教授は重要な結論を紹介する。

「企業は低税率国で利益を計上するために、移転価格や無形固定資産の使用料配分などを用いている。
しかし、こうした利益の背景にある実際の生産や雇用は極めて少ない。」

つまり、法人減税を実施すれば企業活動が国内で増え、雇用環境が改善するという話は幻影なのだという。

紙の上のGDP

クルーグマン教授は、低税率国として有名なアイルランドで検証する。

「私の考えが正しければ、アイルランドの経常赤字によって実際の資本流入を測ることができる。
1980-2014年で赤字の累積額は680億ドルであり、これはアイルランドのGDPの1/4にも満たない。」

34年でGDPの1/4弱という数字は大きい。
しかし、アイルランドが大国でないことを考えれば、この数字が他の大国にとって大きなものでないことは事実だ。
税率によって奪われたと騒ぐほどのことなのか。
クルーグマン教授は「ケルトの虎」の真実をこう語る。

「答は、(アイルランドの)経済成長のほとんどが現実のものではなかったということだ:
これは、租税回避策が架空の成長を生み出すレプラコーン経済学だ。」
(レプラコーンとは、宝のありかを知っているとされる妖精。)

アイルランドは低い法人税率によっていくらか諸外国から企業収益を奪ったかもしれない。
しかし、その大半は実際の資本や経済活動ではなく、移転価格やIP使用料など、紙の上での話だったのだ。
多少は雇用も奪ったのだろうが、増えたGDPに釣り合うような規模ではなかった。
クルーグマン教授は、トランプ減税の根拠が事実についての誤った解釈に基づいていると断じた。

(次ページ: 減税しても資本移動が起こらないワケ)


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