ピーター・シフ:ドル相場の死角

Euro Pacific CapitalのPeter Schiff氏が、米金融政策とドル相場について語っている。
奇説の部類に入るものだが、この人はそうした奇説を10年に一度程度当てるから心配だ。


「もしも米財務省が財政赤字を賄い、バランスシート縮小に努めるFRBの国債償還を受けるために年2兆ドルを借り入れるとすれば、他のたくさんの借り手をクラウディング・アウトしてしまう。
財務省が全部借りてしまうから、他の借り手は借りたくても借りられなくなってしまう。」

シフ氏がポッドキャストで語っている。
このクラウディング・アウトの1つの表れが、新興国市場に対する懸念の高まりだという。
新興国の一部ではドル建て債務が積み上がっているところがある。
しかし、そこに向かうはずだったドル資金が米国債増発に吸収されてしまうとともに、最近のドル高でダブル・パンチを浴びている。

クラウディング・アウトは起こらない

しかし、驚くなかれ。
シフ氏はこうした論理自体が誤りだと話している。
その理由は、クラウディング・アウトなど(中期的に)起こりえないからなのだという。

もしも、FRBがやると宣言したことを本当にやったら、もしも財政赤字が予想どおりの大きさになるなら、民間の買い手に新興国債券を買わせないために、どれだけ(米)金利は上昇しなければならないか。
新興国債券は(米債より)はるかに利回りが高い。

シフ氏は、米政府が歳出を賄いFRBから償還を受けるのに十分な資金を調達できるとは考えていないのである。
仮に無理にやろうとすれば、人々が考えるよりはるかに高い利回りを保証しなければならなくなるという。

ドル相場の死角

シフ氏は、市場が思い描くシナリオには無理があるとし、その核心を指摘する。

「この理論のすべては、米経済が景気後退なく拡大を続けることを前提としている。
経済が弱くなりFRBがすべてを延期すれば、FRBは債券の売却(償還)をとりやめ、買入れを再開するはずだ。
最後には、すでに行われた利上げだけで景気後退に十分であることが明らかになるだろう。」


こうした展開が、市場のシナリオをひっくり返してしまうとシフ氏は予想する。
ドルは不足するのではなく、溢れるようになるのだという。

「大きな財政赤字はドルにいいものではなく悪いのだ。
これは直観に反する考えだ。
・・・しかし、歴史的に見れば、ドルと財政赤字の間の関係は逆向きだ。」

シフ氏はFRBが量的緩和に逆戻りすると考えている。
(根拠を述べずに)QE4の規模は前3回合計を上回るものになるだろうという。
そして、この可能性を勘案しない投機ポジションは大きな損失を抱えることになるという。

株式はインフレ・ヘッジになるか

シフ氏は今回の新興国市場の動揺から、米市場への教訓を引き出している。
今回の新興国通貨下落の過程で、通貨より株式の方が大きく下落する例がみられる点だ。

「株式にはインフレ・ヘッジの効果があると考える人がいる。
新興国通貨が下落して、これはインフレ的な現象だから、株でヘッジできるかもしれない。
しかし、それは起こっていない。」

シフ氏は、ドルからの逃避が始まりドル安になる場合、インフレが起こると同時に、株も当初下落するだろうと予想している。
結果、インフレ・ヘッジ効果は十分得られず、通貨と株のダブルで下落を被ると警告している。

「最終的にもしもハイパーインフレになれば、名目の株価は上がるだろう。
でも、(インフレを調整した)実質の株価はやられてしまう。」

シフ氏の一連の予想が(誇張があるにせよ)的中する可能性が高まってきた。
それは、シフ氏が《いつ》を予想せず、次の景気後退期の定性的な予想を述べているためだ。
米市場は前2回、景気後退期にバブル崩壊という形を経験してきた。
次回が《崩壊》というほどのものになるかどうかはわからないが、小さな《調整》で済むと考えるのは楽観的すぎる。
つまり、シフ氏の悲観論はいくつかの点で当たってしまうのだろうが、これは占い師の巧みな話法に似たところがある。


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