早川英男氏:アベノミクスの化けの皮

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元日銀理事の早川英男氏は、円高が日銀を窮状に陥れかねないと心配している。
米トランプ政権からは円安を責められ、日本政府からは円安を求められ、立ち往生しかねないという。


「日銀内部では物価目標の早期達成への意気込みよりも、目標達成前に次の景気後退が到来することへの不安の方が勝りつつあるのではないか。
そうであれば、その際の政策対応余地を持つため、少しでも早めに長期金利の水準を上げておきたいと考えるのは自然である。」

早川氏が週刊エコノミストで日銀の本音を忖度している。
次の景気後退期における利下げ余地を広げておくために、日銀が長期金利ターゲットの引き上げ(あるいは短期化による実質的引き上げ)を望んでいるとの見立てだ。
早川氏は、コアCPIがプラス1%超で推移すると見通せるようになれば、同ターゲットの引き上げもありうるとしている。

日銀が次の景気後退を意識しているだろうという推測は、日銀が4月の「展望レポート」で目標達成時期を示さなくなった現象と擦り合っているように見える。
仮にあと1-3年で景気後退に入るなら、近いうちの2%物価目標を見込んでも意味がない。
以前のように、だらだらと達成時期を先送りし、批判を浴びることになってしまう。

早川氏は、長期金利ターゲット引き上げを視野に入れた場合でも、日銀には苦難が待ち構えているという。

「最近心配し始めたのは、今後、1ドル=100円割れ程度まで円高が進み、この長期金利目標の引き上げシナリオの実現を阻むかもしれないという点である。」


早川氏は、異次元緩和の当初2013-14年の円安について、金融緩和による円金利低下に加え「貿易赤字が急拡大し、経常収支さえ赤字転落が懸念された時期だった」ためとしている。
これは、日銀自体が認めていることでもある。
それに対し、その後は、円安と原油安によって貿易収支・経常収支は大きく回復した。
経常収支の大幅黒字化はそれだけで(中期的な)円高要因だが、それを加速させうるのがトランプ大統領というカタリストだ。
中間選挙までの得点稼ぎのために、米韓FTA見直しのように日米間でも為替が俎上に上がる可能性はゼロとは言い切れない。
これを懸念して、市場が先に円高に動く可能性もある。

早川氏は、円高・企業収益悪化・株安となれば、アベノミクスの化けの皮が剥がれてしまうといい、同政策の正体をこう書いている。

財政健全化の遅れと、金融市場の価格形成のゆがみや金融仲介機能の低下などをもたらしただけだった

政府はこれまでどおり、日銀に金融緩和を求めてくるだろう。
しかし、円高の前に長期金利ターゲットを引き上げておかなければ、実効ある追加緩和手段はほとんど残っていないはずだ。
これが早川氏の危機感である。

円高がなくとも、日銀は前途多難だろう。
今、不況に備えて長期金利ターゲットを引き上げれば、それは金融引き締めである。
これは、ディスインフレ要因となる。
それでもなお、コアCPIがプラス1%超で推移すると見通せる状況が維持できるだろうか。
期待インフレを低下させてしまうことで、その分(ゼロ金利制約がある中での)実質金利引き下げ余地を小さくしてしまうのではないか。

結局のところ、異次元緩和とは非常時対応と割り切るべき政策だった。
しかし、今では日本経済は完全にその劇薬に依存してしまった。
そこに冬がやってくるかもしれない。
FP(浜町SCI)は引き続き、突然のリバーサル・レートの発見によって金融政策のレジームが変化を余儀なくされると予想している。


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