セバスチャン・エドワーズ:忘れられたデフォルト

UCLAのSebastián Edwards教授が、社会保障負担の増大による各国財政の悪化に警鐘を鳴らしている。
問題が起こらないことを前提とした議論は適切でないと戒めている。


契約を遡及的に調整しようとする各国政府は再び『必要なもの』との法的議論を持ち出すのだろうか。
1933年の金条項の無効化は、この可能性を考える法的・経済的理由を多く与えてくれる。

チリ人のエドワーズ教授が興味深いテーマをProject Syndicateで扱っている。
教授が言及する金条項とは、投資家をインフレ(ドルの減価)から守るため、債務者に金貨または金等価物での返済を義務付ける条項だ。
これが、米経済が大恐慌から脱する際に問題となった。

フランクリン・ルーズベルト大統領は、大恐慌からの脱出のためドル切り下げを画策した。
しかし、その時に金条項が問題となった。
金条項によれば、ドル切り下げが行われると、その減価分を打ち消すように債務のドル建て価値が増価される。
これを甘受すれば、米政府だけでなく民間債務に至るまで債務者の(ドル建てでの)負担が重くなってしまう。
経済環境を考えれば、無数の民間債務者が破産に追い込まれるだろう。
これを回避するため、米議会は1933年、両院合同決議によって金条項を過去にさかのぼって無効にした。

投資家にとってはとんでもない話だから、当然ながら裁判になった。
しかし、最高裁までいった4件の訴訟すべてが5対4の僅差で政府勝利となった。
大恐慌からの立て直しのためであれば、遡及的無効化を『必要なもの』と認定したのである。

エドワーズ教授は、この例を「一方的かつ遡及的に債務をリストラした」点から米政府による債務不履行の例としている。
ルーズベルト政権は『契約の否認』には当たらないと主張したが、それは法律・裁判上の形式論であろう。
実際、すべての投資家が不利益を被ったのであり、法律家がこれを何と呼ぼうが、投資家にとってはデフォルトである。
非常時とは言え、米ソブリンの名声はこの時著しく毀損したのだ。

エドワーズ教授は、米国が今、集団的記憶喪失に陥っているという。

議会で債務上限が議論される度、政治家やジャーナリストは古臭い屁理屈を持ち出す:
米国は債権者に対し借金を踏み倒すことはない。
・・・これは事実ではない。

ポピュリストとしての面目躍如とも言えるトランプ政権の財政政策が人々の不安を掻き立てている。
景気がいい中で大規模な財政政策を打つ。
自国の貿易赤字を2国間の貿易摩擦で解決しようとする。
こういう人たちが、難癖をつけて悪意あるデフォルトを起こさないという保証はあるのか。

エドワーズ教授は、米国だけでなく、多くの国で社会保障費の増大により財政悪化が進んでいると警告している。
しかし、やはり米国の議論が目を引く。
これを議論している人はまだ少ない。

米最高裁はかつて『必要なもの』との主張に同意した。
再び起こらないとはいえないだろう。



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