ラグラム・ラジャン:魔法の瞬間の到来

中央銀行はインフレ押し上げの方法を知らない

以前は高インフレと戦っていた各国中央銀行が今、ディスインフレと戦っている。
戦ってはいるが、各国の戦況は決して順風満帆でない。


「多くの場合インフレが低すぎ、中央銀行がインフレを高めたいが、やり方がわからず手段もない。
このため非伝統的政策がとられたが限界的な効果しかなく、8年かけてやっと2%程度だ。
私たちはインフレを押し上げる術を知っているとは言えず、それにあまり集中しすぎるべきでない。」

リーマン危機後の金融政策は、皮肉なことに、各国の非伝統的金融政策がインフレ押し上げに十分な効果を持たないことを証明した。
中央銀行は(限定的な副作用の中で)インフレを押し上げる術をしらない。
だから、金融政策への過度の依存はやめるべきとの意見だ。

魔法の瞬間

ラジャン教授は、ただただ金融緩和を強化すればいいという人たちの意見には反対だ。
確かに、マネタリー・ベース拡大には大した効果がないことがわかったのだから、その縮小にも大して悪い効果がないとの望みが生まれた。
しかし、マネタリー・ベース拡大やマイナス金利には、それ自体の効果以外に副作用がある。
その素朴な例が、インフレの急上昇だろう。
リフレ派の生き残りには《高インフレはいつか来た道だから、対処できる》と反論する人が多い。
しかし、これは市場の短期・長期の動きを十分に説明・予測できない経済学上の空論だろう。


近年高いインフレが起こっていないことは問題だ。
しかし、それは世界中の競合するレバレッジのかかった市場が引き締まる『魔法の瞬間』がやってこないことを意味するわけではない。
日本や欧州が引き締まる。

中長期で言えば、高インフレや市場の変化は制御可能かもしれない。
しかし、市場が経済を殺すのには数日あれば十分かもしれない。

ラジャン教授は労働市場でも同様に急激な引き締まり・賃金上昇が起こりえるという。
その可能性を否定してしまえば、仮に起こってしまった場合の対応が後手に回りかねないと心配している。

選択肢の乏しい日本

日本については、インフレ期待を剥落させないために現状の説明・政策を継続させるしかないという。
日銀がポーズを続けているうちに、他のより本質的な経済政策を進めることが必要と話した。

もっとも、市場関係者の疑問は、こうした点をすでに自分たちが見透かしていることだろう。
見透かされた説明・政策で果たしてインフレ期待はどれほどアンカーされているのだろうか。
そしてもう一つ。
ラジャン教授のロジックに従えば、日本に「魔法の瞬間」がおとずれる可能性はかなり高いのだろう。


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