白井さゆり教授:日銀は窮地に

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2011年から昨年3月まで日銀審議委員を務めた白井さゆり慶應義塾大学教授が、日銀の金融政策についての見通しを話している。
日銀の金融政策正常化は2017年の絶好のチャンスを見送ったため、安倍‐黒田体制の下では進めにくくなったという。


「少なくとも安倍政権中は難しいのではないか。
首相としても2%達成がみえていないのに正常化されたら説明が難しい。」

白井教授は日銀の金融政策正常化についてReutersに語った。
今年に入り米長期金利が上昇し株価下落につながった。
また、ドル円相場はじりじりと円高が進んだ。
こうした不安要素がある中、日銀は金利上昇につながる金融政策正常化に着手できないとの読みだ。

白井教授は、昨年2017年こそ金融政策正常化にとって「ベストタイミングだった」と話している。
昨年、経済はすでに完全雇用に近く、需給ギャップも解消していたからだ。

米金利上昇は、本来なら日本にとって金融政策正常化のチャンスを与えてくれる。
ドル金利が上がるなら円金利を多少引き上げても円高ドル安は進みにくい。
ところが、米金利上昇が資産価格下落をともなう場合は話は違ってくる。

日銀は2017年、金融政策正常化のチャンスを見逃したのかもしれない。
これは次に来る景気後退期の金融政策に大きな制限を課してしまう。

「YCC(イールド・カーブ・コントロール)はマイナス金利の副作用を認め、マイナスに沈んだ長期金利をゼロ以上に上げ、スティープ化させる政策。
事実上、金利を下げるのは無理と認めた政策。」


つまり、金利をさらに引き下げる余地は極めて小さい。
無理に引き下げれば、金融機関の経営悪化など効用を上回る副作用を及ぼしかねない。
昨年イールド・カーブを多少なりとも引き上げておけば、景気後退期に引き下げる余地ができていたはずだ。
しかし、そのマージンがない。
そうこうするうちに五輪効果が剥落し、金融緩和の効果も逓減していく。

五輪特需はなくなっていき、日銀の政策が需要を押し上げる効果も減衰する。
・・・
過去5年間より緩和の効果は出づらくなる。
日銀にとっては非常に厳しい状況になる。

安部-黒田体制の下、自発的な金融政策正常化が難しいとの読みは説得力がある。
この間、世界経済の好調が続くなら、日本は先進国屈指の金融緩和的環境となり、資産価格に有利に働くだろう。
一方、白井教授が危惧するように景気後退が始まるなら、資産価格には黄信号が灯る。
日銀は長期金利ターゲットを死守し、ETFを買い増すかもしれないが、それだけで経済・市場を支えられるものでもなかろう。
もう一つのシナリオとして、自発的でない形の金融政策正常化の可能性も忘れてはいけない。

  • 銀行の経営不振、一部銀行が貸し込んでいた事業者・銀行以外の金融機関の破綻など
  • 北朝鮮問題が片付き、米政府が日本の為替政策に注文を付け始める

米ドル(青)と円(赤)の実質実効為替レート
米ドル(青)と円(赤)の実質実効為替レート

なにしろ、不平不満の材料はいくらもある。
実質実効為替レートで見ると、米ドルは下げたとは言え、いまだ高値圏にある。
一方の円はかなりの安値圏にあるのだ。


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