スティグリッツ:CEOの価値観は無視しろ

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ジョセフ・スティグリッツ教授が今年のダボス会議のありようを痛烈に批判している。
1995年から出席を始め、過去のどの年より落胆したと書いている。


ダボスに出席したCEO達は成長への回帰、自社の利益と自己の報酬の上昇に陶酔していた。
経済学者は、この成長が持続可能なものでも包括的なものでもないと釘を刺した。
しかし、そうした議論は、物質主義が支配する世界ではほとんどインパクトがない。

スティグリッツ教授がひどく厭世的な論文をProject Syndicateに寄稿している。
少しばかり世界経済が上向いたことで、問題が解決されたと酔いしれる大企業経営者らを批判した内容だ。

「ダボスのCEO達にとっては、金持ちとその企業のための減税や規制緩和がすべての国の問題に対する解答らしい。
彼らが主張するトリクルダウン経済学は、最終的には全国民が経済的に恩恵を受けると保証している。
そしてCEOの良心さえあれば、関連規制がなくても環境保全を確保できると言っているように見える。」

スティグリッツ教授が念頭に置くのは米国であろう。
苦しむ労働者の味方である大統領は金持ちと企業に有利な税制改革を決め、経済回復の大義名分で環境規制を取り払っている。
その恩恵を受ける大企業のCEO達がダボスでバラ色の未来を語る。
自分たちの国の政策は正しいと胸を張り、経済は盤石とアピールしている。
教授は、歴史の教訓が真逆を教えていると書く。

「トリクルダウン経済学は働かない。・・・
有効な規制と汚染に対する実負担がなければ、彼らがやってきたことを変えるとは信じられない。」


スティグリッツ教授の見方は極めて現実的だ。
少なくとも米国においては、環境問題をめぐる状況は悪化している。
格差問題については、死にゆく産業に延命措置を施すことで改善している部分があるのは事実だ。
しかし、財政政策に財源の制限があることを考えれば、トランプ政権の保護主義、民族主義、社会保障政策が財政政策の効果を打ち消して余りあると見るべきだ。

ダボス会議については、以前から多くの人たちからの批判を集めている。
BRICsの生みの親で、英財務次官も務めたジム・オニール氏は「地球上で最もすぐれた逆指標の1つ」と酷評している。
U2のBonoはダボス会議を指して「ほらみろ、雪の中の太った猫たちだ」とこき下ろした。

その意味で、今年のダボス会議に日本の閣僚の出席がなかったことは実に時宜を得たことであった。
内政・外交に難題を抱える今、物見遊山に出かける暇はない。
さらに、米国とは異なり、日本政府が(十分とは言えないかもしれないが)所得再配分や環境規制に目を配っている事実は、ほのかな希望の光を感じさせるものだ。
日本が安全保障面で米国との同盟関係を利用せざるをえないのは(少なくとも短中期的には)明らか。
だからと言って、ダメな隣人に染まることのないよう祈っている日本人は少なくなかろう。

スティグリッツ教授は、米社会が政策と景気拡大、そして独善的な企業経営者たちによって悪い方向に向かっているとの危機感を滲ませている。

CEO達がスピーチの冒頭で暗唱する価値についてのつまらない話は忘れよう。
彼らには、1987年の映画『ウォール街』でマイケル・ダグラスが演じた人物のような率直さはない。
しかし、メッセージは変わっていない:『貪欲は善だ。』
私を憂鬱にさせるのは、このメッセージが明らかに誤りなのにもかかわらず、多くの権力者たちが正しいと信じている点なんだ。


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