MMTが示唆するパラダイム・シフトと市場への影響:PIMCO

米国において左派が引用し脚光を浴びているモダン・マネタリー・セオリー(MMT、現代貨幣理論)について債券ファンドPIMCOがコメントしている。
同社は冷静にMMTが主張される背景を読み取ろうとしている。


MMTを批判する人の中には、MMTが現代的でも金融にかかわるものでも理論でもないと言う。
また・・・この説において正しい部分は新しくなく、新しい部分は正しくない。

PIMCOが自社コラムにおいてMMTに言及した。
多くの主流派経済学者と同様、PIMCOもまたMMT推進者の意見を正しくないと断じている。
PIMCOがMMT推進者の主張を丁寧に要約してくれている。

「1) 要約すれば、MMT推進者は、完全全雇用を目標とするために積極的な財政政策を用いるべきと仮定する。
2) そして、財政政策が選択する財政赤字がどのようなレベルであろうと、金融政策によって(マネタリー・ベース拡大を許容することで)直接調達されるべきと仮定する。
3) 拡張的財政政策はそれゆえ自動的に債券の供給でなくマネー・サプライを増やすことになり、財政赤字の調達は決して問題にならない。
4) もしもインフレが問題になれば、緊縮的な財政政策が適切なツールとなり、それは中央銀行にマネー・サプライを減らすよう促すことになる。」
(注: 行番号はフィナンシャル・ポインターが付したもの)

以下、各行について読み解いておこう。
1)は景気刺激策を完全雇用のために用いるべきとの主張を示している。
金融政策に伸びしろがない現在、財政が選択肢であるのは事実だろうが、青天井というわけにもいかない。
他の国と同様、あるいはそれ以上に米国では公的債務が積みあがっているからだ。
MMTが否定的に論じられる1つの理由は、3)にもあるように債務の水準にかかわらず債務が増えても問題ないと主張する点にある。

2)はマネタイゼーションを積極的に行えという主張だ。
実は、大規模な量的緩和に取り組んだ国では、これは意図しなくとも実現している状態と言える。
意図して行うか、意図しないで行うかで結果が変わるのかは少々疑問だ。

3)はMMTが最も批判を受ける部分だ。
1)で発行された国債は2)で中央銀行に吸収されるから、金利は上がらないという主張である。
近年、各国中央銀行が長期国債を買い入れた時、長期金利は低位安定したから、一時的には成立しうることになる。
ただし、長期的には持続不可能と見る人が圧倒的に多いのも事実だろう。


4)は、Exitにおいてソフト・ランディングが可能との主張にあたる。
さまざまな要因からインフレが起こるなどした場合はすぐに反転すればよいという主張だ。
多くの人が歴史を紐解いた上でこんなうまい話にはならないと感じている。
理論的には誤りでないのかもしれないが、現実社会においては極めて実現が難しいやり方なのだろう。
財政刺激策を薬物に喩えるタカ派の言葉を借りるなら、長い間さんざん薬物に溺れ依存している人が、体調に問題が起こったらすぐに薬を抜けると主張するようなものだ。

多くの人がMMTにはやはり無理があると感じている。
PIMCOもそう考えているようだが、そのスタンスは極めて冷静だ。

「最近MMTが公開討論で注目を集めているのは、広範なパラダイム・シフトの兆候だ。
緊縮財政から、新たな主流の見方、つまり経済成長を刺激し世界的貯蓄余剰に対処し所得・富の格差拡大に対応するツールとして財政政策をもっと積極的に用いるべきという見方へのパラダイム・シフトだ。」

PIMCOの表現には、手法としては受け入れがたいものの、その趣旨は受け取ろうという姿勢が見て取れる。
コラムでは、MMTの枠組みが戦中・戦後の財政従属の時期に似ていると指摘している。
米国が財政負担軽減のために長期金利ターゲットを敷いていた時代だ。

PIMCOは近い将来MMT推進者の主張が現実のものとなることはないと予想している。
だからと言って、何も起こらないわけでもないようだ。
なぜなら、MMTによる青天井の財政拡大が実現しなくとも、人々の意識の中で「パラダイム・シフト」が進みつつあるからだ。

今のところの結論はこうだ。
より積極的で拡張的な財政政策への支持が高まることは、イールド・カーブのスティープ化や将来のインフレの上方リスクをもたらすはずだ。

皮肉なことに、MMTのような考えの本当の恐ろしさとは、経済が停滞する中で想像以上にインフレが進まない点にある。
低インフレが慢心を助長し、どんどん債務が増え、経済は低金利に依存していく。
どこにも危険領域の標識はなく、いつも間にか帰還不能点を越えてしまうのだ。


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