FT「今年の人」にジョージ・ソロス氏

The Financial Timesの「今年の人」にジョージ・ソロス氏が選ばれた。
今回は選ぶ側、選ばれる側に、単純でない気持ちがこもっているようだ。


FTの『今年の人』の選定は通常、その人の功績に応じて行われる。
ソロス氏の場合、彼が体現する価値観もまた選定の理由となった。

FTが書いている。
もちろん、選定理由はソロス氏の投機家としての功績に対してではない。
長いフィランソロピストとしての功績、そして価値観に対するものだ。
同氏の篤志家としての活動は長い。
クォンタム・ファンド設立後まもなく1973年には寄付基金を設立し、世界中で慈善活動・民主活動等への支援を行ってきた。
財力から言ってこの功績も大きいのだが、FTが今ソロス氏を選んだ理由は他にあるようだ。

ソロス氏はこの数年、世界の反民主的勢力から多くの根拠のない批判を浴びせられてきた。
独裁者、極右、ポピュリストなどからすれば、リベラル勢力を支援するソロス氏は敵だったのだ。
また、ユダヤ人のヘッジ・ファンド経営者という何となく怪しく聞こえる経歴は、フェイク・ニュースを創作するには絶好の素材だったのだろう。
フェイク・ニュースの大きな波は、2015年ハンガリー オルバン首相が、移民の流入の黒幕としてソロス氏を名指ししたことから始まった。
(トランプ大統領の同様のソロス氏批判はこれをまねたものだ。)
オルバン首相自身がソロス氏の奨学金で助けられたにもかかわらず、恩をあだで返したのだ。

「オルバン氏の政党は、億万長者ソロス氏の肖像の看板で、ナチの『笑うユダヤ人』のポスターと同じ批判を繰り返した。」

また、Facebookはダボス会議でソロス氏から批判されると、ソロス氏へのネガティブ・キャンペーンを外注していたとThe New York Timesから指摘されている。
その後の報道では、Facebookは、ソロス氏が同社株をショートしていたために批判したとの物語をでっち上げようとしていたという。

もちろん、ソロス氏を含むリベラル派の重鎮たちの家に爆発物が置かれたことも忘れてはいけない。
ソロス氏は、反リベラル勢力から誰よりも叩かれることで「今年の人」に選ばれることになったのだろう。


ソロス氏については驚くほどの誤解が存在するようだ。
かいつまんで言えば、ジョージ・ソロスとは投機で大きく当てた人だ。
政治色のない慈善活動にも私財を投じているのだから、それは素直に誰からも称賛されるべきだ。
それ以上でもそれ以下でもなく、スターウォーズの悪の皇帝でも何でもない。
もちろん、ファンドを商売としていれば、法令違反を犯すこともあろうし、えげつないことをやったこともあるのだろう。
(最近も香港子会社で法令違反を指摘されている。)
しかし、それと政界における陰謀論とはあまりにもかけ離れた話だ。

1930年ハンガリー生まれのユダヤ人。
時代背景からしてもソロス氏が苦労したことは容易に想像できるし、実際に苦労したようだ。
独裁者からの迫害を逃れ、ロンドン、米国へと移り住んだ。
そこで大金を稼いだ投機家が、リベラルな活動のために大金を使うことは至極自然なことだろう。

ソロス氏を選んだFTも最近はすっかりリベラルな論調が目立つようになってきた。
以前はこの新聞にそれほど強いリベラル色を感じることはなく、むしろ中道といった印象だった。
日本経済新聞の傘下にあることから見ても、決して左が強いメディアではなかったことがうかがわれる。
ところが、最近、世界各国で専制政治、極右、ポピュリズムなどが台頭するにしたがい、そのアンチテーゼとしてか、リベラルな論調が目立つようになった。

「彼はリベラルな民主主義と開かれた社会という考えの標準的な持ち主だ。」

FTはソロス氏をこう紹介している。
いまさら「今年の人」に選ぶのかと首を捻るところもあるが、それには理由があるのだろう。
ソロス氏は一番いじめられたから選ばれたのだ。

皮肉なものだ。
今ソロス氏を批判している人の中には、社会を食い物にしている層もあれば、その割を食っている層もある。
ソロス氏が救いたかったのは後者であったはずなのに、その人たちから批判を受けている。
この皮肉な構図を心配したのか、ソロス氏は次を見据えている。

以前は歴史は私たちの側にあった。
その時代には、開かれた社会がとても成功し、地盤を築いていた。
しかし、歴史のコースが変わった。
その問題を理解したいんだ。
どうして閉ざされた社会が地盤を築いたのか。


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