FRB金融緩和とドル相場:マーク・ファーバー

スイス人著名投資家マーク・ファーバー氏が世界の金融政策とドル相場について語っている。
経済・市場で前例のない、あるいは稀有なことが続く中、73歳の老人の言葉が新鮮に響く。


債券市場は、特に米国以外、10兆ドルの資金がマイナス利回りとなっている市場において、とても歪められている。
私が育った1970年代、金利は上昇構造にあり、米国債利回りは15%を超えていた。
私が生きているうちに金利がマイナスになるなんて思いもしなかった。

ファーバー氏がThe Income Generation Showで超低金利の世界への感慨を語った。
債券市場の超長期サイクルが人々の脳裏から離れない。
60-70年間のサイクルだ。
上げ相場はボルカー・ショックに至る数十年。
そこから米金利は2016年までトレンド的に35年間下げ続けた。
金利低下は当然、資産価格にはプラスの要因だ。

ファーバー氏は、FRBが他の中央銀行よりまともと評価しながら、各国共通の問題を指摘する。

「今日の問題は、資産市場が大きく膨張している点だ。
人々はインフレの話をする時CPIなどの数字で議論する。
しかし、インフレとは過剰な貨幣の増大を表しており、それは賃金、コモディティ、資産価格、消費者物価に現れる。
1981年から今日まで、中断をはさみながら、巨大な資産インフレが進んできた。」

ファーバー氏は、実体経済・金融経済に対する見方を説明する。
近年たびたび市場関係者らから指摘されてきた観点だ。

「この膨張した資産市場が一たび膨張できなくなると、それが景気後退をもたらす。
つまり、実体経済が資産市場・株式市場に影響を及ぼすのではなく、株式市場・不動産市場・概して資産市場が実体経済に影響を及ぼすんだ。」

こうした見方は、レイ・ダリオ氏の経済モデルなどとも共通するものだ。
金融経済が実体経済に強い影響を及ぼしていたのは今に始まったことではあるまい。
しかし、金融経済が大きくなれば、その影響も当然大きくなり、(資産効果が効きやすい米国など)場合によっては圧倒的になってしまうのかもしれない。

ファーバー氏は、番組MCのFRB政策に関する誘導尋問に対し少々のリップ・サービスをしている。

「FRBがウォール街を幸せにしたいと思っているかは知らないが、FRBの中には自分たちが巨大になった化け物ドラキュラを生み出してしまったと考えている人がいるはずだ。
どうやって封じ込めよう?
・・・
米国株が15%超下がれば、いつかFRBも株の買い入れを始めるだろう。」


こうした何が何でも市場・経済を持ち上げ続けようとするかに見える各国の金融政策に対して、ファーバー氏は落とし穴を指摘する。

米ドルは他通貨、金などハード・カレンシー、おそらくビットコインなどに対して高くなっている。
もしもFRBが積極的に金融緩和を始めたら、ドルは下がるだろう。
現在のドル相場はどうみても割高だ。
もしもドルが下がれば、ドルの買い手は潜在的・継続中のドル安に対して対価を求めるだろう。

中央銀行が自国通貨建て資産価格を買い支えたとしても、自国通貨の価値が弱くなってしまえば、儲けからは程遠い。
アメリカ人は高い輸入価格に苦しむことになる。
(ヘッジしていない)外国人投資家は投資価値の目減りを被ることになる。
米国がこれまで《強いドルは国益》としてきた点が逆回転することになる。

ドルの買い手が求める「対価」とは何であろうか。
潜在的なドル安の分、高い利回りを要求するということだろう。
既存の資産についていえば、価格に対してマイナス要因だ。

一方、通貨安についてはいい面もあるし、そもそも為替レートとは貿易の不均衡を是正する機能があったはず。
ドル安となってもどこかに均衡点があるのではと番組MCは問いかけた。
ファーバー氏は、非常に慎重にリスク・シナリオに言及した。

わからない。
1970年代のようなドル安になれば、インフレが昂進し、米ドルからの逃避が起こる。

ファーバー氏が想定するのは超低金利下にある日欧の投資家の動向だ。
利回りを求めて米資産を買った日欧投資家は、ヘッジをかけていない限り、大きな痛手を受ける。
かといって、ヘッジしてしまっては、せっかくの米利回りの水準を享受できないから、リスクをとってヘッジなしで臨む投資家も多い。

ファーバー氏は、特に欧州の債券投資家について危うさを滲ませる。
先の欧州金融危機で破綻の際に立たされた国々の長期金利でさえ大きく3%を割り込んでいるからだ。
欧州市場の不確実性を嫌う投資家が米市場に向きやすい環境になっている。
FRBが再び金融緩和を強化したら、このキャリー取引に何が起こるのだ。

「一たびドル安になれば、こうした(日欧からの)マネーが米ドルから逃避し、米資本市場に影響を及ぼす。
しかし、誰より早く認めておくが、それがどうやっていつ起こるかはわからない。
それでも、現在はとても人為的な状況であり、いい形で終わりそうにない。」

金融緩和の意義について疑問の余地はない。
しかし、それでも金融緩和に対して多くの人が不安を抱いている。
批判という側面を取り除いて、考えるべきテーマなのだろう。

これは人類史上最大の経済学的実験なんだ。
金利がこんなに低いことなどなかったんだ。


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