ジョセフ・スティグリッツ
 

CEOの本気度を監視せよ:ジョセフ・スティグリッツ

ジョセフ・スティグリッツ教授が、米企業が見せるステークホルダー重視の姿勢に注目している。
株主至上主義からの変化を歓迎しつつも、慎重な見定めが必要と書いている。


米国の最も強力なCEO達の新たなスタンスはもちろん歓迎だ。
しかし、しばらくそれが新手の人気取りなのか、それとも本当に言っていることをやろうとしているのか様子を見ないといけない。

スティグリッツ教授がProject Syndicateで書いている。
教授が指す「新たなスタンス」とは米国のCEOで組織される団体ビジネス・ラウンドテーブルが19日示した声明のことだ。
同団体の会長を務めるJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは

「新たな声明は、CEOがすべてのステークホルダーのニーズに応えると本当に約束した時、企業は社会を改善する上での主たる役割を果たしうると主張する。」

と宣言した。
つまり、企業の目的は株主利益の最大化でなく、すべてのステークホルダーの利益にあるとの方向転換だ。
従来の《企業は株主のもの》との考えは、ミルトン・フリードマンが1962年の著書『資本主義と自由 』で主張した次の一節から続いてきたものだ。

「企業には1つ、そして1つだけ社会的責任がある。
ゲームのルールの範囲内、つまり欺瞞や詐欺のない開かれた自由な競争の範囲内においてその利益を増やすために、リソースを用い、活動に従事することだ。」

フリードマンの考え方は企業の利益最大化を中心に据えたものであり、その恩恵はまず株主に及ぶことになる。
スティグリッツ教授はもちろんこれに反対なのだ。
フリードマン流の考え方が企業統治関連の法律に取り入れられ、米企業が利益中心の存在になったと指摘している。
教授は、株主資本主義が社会厚生を最大化しないと主張している。

スティグリッツ教授は、企業が社会的責任を果たしていない例をいくつか挙げている。
1つ目はAppleなど多国籍企業の税逃れだ。
税法に反していないからという理由で、本来収めるべき税金を合法的に回避している。
教授は従来からこうしたやり方を詐欺と糾弾してきた。
この他にも、金融危機の後訴訟を抱えた金融機関(残念ながらダイモン氏のJPモルガンも訴訟を逃れなかった)の中に、今でも金にモノを言わせて訴訟を続けているところがあると批判している。


スティグリッツ教授は、ビジネス・ラウンドテーブルの方針変換だけでは不十分と書いている。

一方で、法改正が必要だ。
フリードマンの考えは単に貪欲なCEOにいつでもやりたいことをさせる完ぺきな言い訳を与えているのみではない。
米法制に株主資本主義を受け付けるような企業統治法につながっている。

米国の法制の底流に流れる株主資本主義の部分を修正すべきといっているのだ。
その一方で、スティグリッツ教授は、これまでも社会的責任を果たすことに前向きな企業があったとも指摘する。
環境規制強化を求めるホンダ、フォード、BMW、フォルクスワーゲンなどの例だ。
もっとも、これなどは規制強化を求めるというより、ゲームのルールを厳しめに揃えてほしいという要請だろう。
こうしたルール整備についても法改正は必要となろう。

その行動が他のステークホルダーに与える影響を考えることを、企業に許すだけなく要求するように、法を変えなければいけない。

スティグリッツ教授のこれまでの言動から見て、今回の主張に違和感はないし、共感するところが多い。
しかし、今回のビジネス・ラウンドテーブルの宣言には別の角度からの心配もある。
それは2つの現象から心配される。

  • ステークホルダー重視といわれる日欧企業の企業統治が必ずしも米企業よりよいとはいえないこと。
  • 米SECが議決権行使助言会社への規制を強化したこと。

よく米国は純粋な資本主義の国といわれたりする。
資本家第一の企業統治だからだ。
一方で、日欧の企業統治は相対的にステークホルダー重視型といわれてきた。
では、日欧企業の企業統治は米企業のそれよりいいのか。
決してそうではないだろう。
日本企業に限っていえば、米企業より悪いから改善しないといけないという話になっている。

すばらしい企業統治なら、株主重視でもステークホルダー重視でもどちらでも関係なくうまくいくのだろう。
しかし、並み以下の企業だとそうとはいえない。
日本株の投資家なら、企業がうまくいかない言い訳に雇用などさまざまなステークホルダーの利益を上げる経営者にうんざりしてきたはずだ。
米企業の新たな企業統治も、こうした言い訳を可能にするかもしれない。
株主重視なら株主の力で経営者の首を斬れるが、ステークホルダー重視なら(つまり株主のみで経営者を首にできないなら)現在の法制で経営者の首を斬る仕組みは存在しない。

米SECが議決権行使助言会社への規制を強化したのも、株主の影響力を減じる結果となる。
この規制強化は共和党の支持、民主党の反対の下で決定された。
経済界が強く共和党に働きかけた結果といわれている。
もちろんアクティビストも行き過ぎれば問題だが、議決権行使会社まで縛るのはどうなのか。
こう見ていくと、結局は米経営者がやりたいことをやりたいだけではないか。

米国株の投資家は長期的には要注意かもしれない。
経済だけでなく企業も、米国の日欧化が進むのかもしれない。


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