AIナラティブがやってくる:ロバート・シラー

ロバート・シラー教授が「テクノロジー失業」にかかわるナラティブについて心配している。


ルーズベルトの『恐れることはない』との発言は、恐怖こそが大恐慌を引き起こしたとする重要なナラティブに触れたものだ。
何が恐怖を生んだかには言及しておらず、何か他のナラティブが効いていたはずだ。

シラー教授がイェール大学の学生新聞YaleNewsのインタビューで語った。
大恐慌の原因は何かと問えば、後講釈ではいくつか理由が挙がるのだろう。
しかし、なぜ1929年10月24日(ブラック・サースデイ)に暴落が始まったのかを説明できる材料は十分には存在しない。
その直前に株価を心配する心理が高まっていた、つまり「恐怖」が高まっていたのは間違いない。
ならば、その恐怖の源泉は何だったかを考えなければいけない。
割高だったのも事実だろうが、それはその日に始まったことではなかった。

シラー教授は、当時の新聞・雑誌の記事から、もう1つとても重要なナラティブを読み取っている。

人々が『テクノロジー失業』と呼ぶ、機械が雇用を置き換えるというナラティブだ。
このナラティブは、ロボットが人々の職をかつてない速さで奪っているというものだ。
このナラティブは1929年より前に発生し、失業率の上昇とともに増幅した。

市場内の要因(企業収益や株価)でなく、一見関係のなさそうなナラティブをシラー教授は関係づけている。
そして、そのナラティブは今でもあてはまりそうな内容だ。
もっとも、ここでいう「ロボット」とはもっと原始的なレベルのもののようだ。
教授は一例として電話を挙げている。
受話器を取ってオペレーターにかけてもらう電話機から、発信者自らがダイヤルを回す電話機に進化した。


「ダイヤル付きの電話はロボットとみなされ、それが人間のやっていた仕事を行うというわけだ。
機械はなくならないのだから、みんな失業率が再び下がることはないと信じた。」

重要なのは、人々の恐怖を掻き立てた思い込みだ。
仕事は失われるだけで、新たに生まれる仕事で埋め合わせられるとは思わなかったのだ。
だからこそ、テクノロジーの進化が失業を連想させ、恐怖を生み出したのだ。

シラー教授は、現代版のテクノロジー失業のナラティブを心配している。
大恐慌時よりはるかに進歩したテクノロジーのもたらす変化だ。

「私は、人工知能(AI)がみんなの仕事を置き換えるというナラティブについて心配している。
AIが人々の生活や将来の雇用にどのような効果を及ぼすか予見するのは不可能だ。
しかし、AIや機械学習まわりのナラティブは、経済的ブームや崩壊をもたらし公共政策を動かす可能性がある。」

今後もAIが雇用を置き換えるのは間違いない。
問題はその時、社会の変化とともに新たな人間の職が生まれるかであろう。
あるいは、生まれないなら、AIに課税するなどの施策を考えるべきだろう。

幸いまだAIナラティブは大きな問題にはなっていない。
それには明確な理由がある。
そして、その理由は時間とともに自動的に反転しうる。

おそらく、米国が世界のコンピューター科学の中心で、ここで起こるイノベーションの栄光の恩恵に浴しているからだろう。
このナラティブは、高失業率の欧州各国、特に南欧において定着するかもしれない。
米国でも、特にもしも本当に印象的なAIが新たに出現したり、失業率が上昇を始めれば、定着する可能性がある。
もしも流行すれば、そのナラティブが不動産や株式の市場のような投機市場に影響を及ぼすだろう。


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