1990年代の再現を狙っている:ジェームズ・ブラード

9月のFOMCで50 bpの利下げを主張し否決されたセントルイス連邦準備銀行ジェームズ・ブラード総裁が、ジェレミー・シーゲル教授と対談している。
ハト派と目される総裁だが、その見通しが意外に強気なのが印象的だ。


「これらは保険的利下げであり、すでに十分行った可能性があり、あるいは年末までには十分済むだろう。」

ブラード総裁がKnowledge@Whartonのポッドキャストで話した。
9月のFOMCでは50 bpの利下げを主張した総裁だが、結果は市場予想どおり25 bpの利下げに留まった。
つまり、ブラード総裁の考える利下げはあと0-1回ということだろう。
もう1つ重要なポイントは、総裁が現在の利下げを「保険的利下げ」と強調している点だ。
ブラード総裁はFOMCの誰よりも大幅な利下げを主張したが、経済に弱気なわけではない。

「もしも本当に大きなショックに見舞われれば、FRBはゼロ金利まで利下げせざるをえなくなり、再び非伝統的金融政策を検討せざるをえなくなるだろう。
しかし、現状はそういう状態ではないと考えている。
現在は、全体としてかなり良好な経済、間違いなく素晴らしい労働市場、良好な消費の伸びが見られる。」

その一方で、ブラード総裁はいくつかの下方リスクも指摘している。

  • 貿易戦争などの影響もあり、工業の一部・農業が不調
  • 世界経済の成長鈍化

ブラード総裁によれば、この下方リスクの発現を回避しようというのが「保険的利下げ」の趣旨だという。

ここで出てくるのが、この下方リスクが2020年にもっと成長鈍化を引き起こすとの考えに備えて保険をかけるというアイデアだ。
・・・すべてうまくいくなら、保険が役立ち、下方リスクを乗り切ることができる。
リスクは低下し、景気後退はやってこない。

うまくいかなかったらどうなるのかとの心配は残る。
ただし、この場合も、利下げは「保険的」でなかっただけで正しかったとの結果論にはなろう。
その場合、もともと地獄に堕ちる運命だっただけなのだ。

ここではブラード総裁のシナリオどおり、うまくいったとしよう。
総裁の次の一手はどうなるのか。

そうしたら政策金利を再び引き上げ、将来の緩和余地を心配する人から見ても十分な政策手段を持つことができる。

なるほど理屈は通っている。


ブラード総裁の脳裏には、以前の成功例があるようだ。

「これがとても有効に機能したケースが1990年代にあった。
その時と同じように今回の景気拡大も対処すべきだ。
なるべく長く景気後退を継続させることを願いたい。」

実効FF金利(青、左)と米株価(OECD統計、赤、右)
実効FF金利(青、左)と米株価(OECD統計、赤、右)

言うまでもなく、1998年にアラン・グリーンスパンFRB議長(当時)が行った「保険的利下げ」のことだ。
アジア通貨危機による不確実性の中、グリーンスパン議長は3度にわたって利下げを行い、不確実性が収まった翌年には利上げを行った。
これが1990年代の長い景気拡大期を実現した。

しかし、これにもよく知られているように後日談がある。

実効FF金利(青、左)と米株価(OECD統計、赤、右)その後
実効FF金利(青、左)と米株価(OECD統計、赤、右)その後

2000年のドットコム・バブル崩壊は、FF金利を2000年末の6.5%から2001年末の1.75%まで下げても食い止めることができず、景気後退が終了しても株価はしばらく下げ止まらなかった。
(最も、経済が回復するなら、株価下落は投資家にとって災難であっても、社会にとって悪とはいえない。)
FF金利はその後2回引き下げられ、1.0%で底を打った。
皮肉にもその金融緩和が再び住宅市場でバブルを生む一因となった。
「保険的利下げ」も諸手を挙げて喜ぶようなものではないらしい。
先例を当たるなら、響きのいいところばかりを見ることのないようにしたい。
その後までよく理解し、時系列のタクティクスをイメージしておくべきだろう。


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