日本人の金融リテラシーが育たないもう1つの理由は、手厚い源泉徴収制度にもあろう。
源泉徴収というバックオフィス機能
普通の従業員は、年末調整の紙を数枚書くだけ(今では給与システムのボタンを押すだけ)で所得税の手続きが終わる。
(米国でも給与からの源泉徴収があり予定納税に充てられるが、4月15日までに確定申告をする。)
金融所得についても、特定口座という夢の制度が存在する。
(無料で提供されている、ちょっとした、ヘッジファンドのバックオフィス代行業だ。)
いずれも、労働者に労働に注力させる上で極めて有効・有用な制度だ。
その一方で、金融や投資における税金の重要性を考えると、こうしたサービスが結果的に金融リテラシーにマイナスに働いているようにも感じる時がある。
まだ金融リテラシーが十分でない時にやってきたのが、異次元緩和継続下での大ばらまきブームと株高だ。
投資熱が高まったところで新型NISAと続き、この譲渡益税免除制度は史上最高値圏でスタートを切ることとなった。
8月に見られたような躓きは今後も繰り返すだろうし、益税免除の恩恵を受けられず、損益通算の機会も逃す人も多いだろう。
それでも救いなのは、人気の商品が分散ポートフォリオであること。
変に偏ったポートフォリオやニッチな資産クラスに集中していないように見えることには安心感がある。
米個人投資家の12月
つらつらと書いてきたが、最後に本題であるチャールズシュワブのポッドキャストの内容を紹介したい。
このポッドキャストは2つのテーマを扱っている。
まずは、税制の変更点の説明だ。
12月は税金の計算期間の最終月だから当然こうなる。
アメリカ人は(確定申告が原則だけあって)個人の税務をかなり重視しているようだ。
日本人が12月に心配することと言えば、非課税枠を使い切ったか、とか、ふるさと納税などの期限だろう。
アメリカ人はもっと丁寧に中身を見ている。
ポッドキャストでも所得税率や控除金額についての細かな変更が紹介されている。
ここで思うのは、これら数字がファインチューニングされている点だ。
インフレが進めば、表中の所得金額や控除金額も引き上げとなる。
ある意味フェアな設定がなされている。
日本の場合、ディスインフレが長かったこともあり、これら数字は相当に硬直的だ。
デフレの間も据え置かれたものが多かったのだろうから、ある意味バランスが取れているとも言える。
しかし、今後日本のインフレ率が以前より高止まりするなら、インフレ・スライドも検討するのが筋だろう。
インフレは所得税に限らず、多くの税目で実質増税要因となる。
その隠れた増税で財政問題を緩和させるのか、それとも財政再建は正々堂々と明示的な増税・歳出減でやるのか、姿勢が問われるだろう。
年末に自問すべき6題
チャールズシュワブのポッドキャストの後半は、6つのQ&Aとなっている。
税金についてのQ&Aである。
金融リテラシーにおいて、何に投資すればよいかももちろん重要だ。
しかし、それはある意味で攻めの部分だけの話。
家計のファイナンスには守りも重要。
このあたり、アメリカ人(中間層以上)はすごいなあ、と思わされるのだ。
- 給与からの源泉徴収や予定納税と推計納税額を合致させる
- 非課税口座を最大限活用する
- 退職金からの最低引出額のチェック(米国では73歳を超えると退職金口座から一定金額を引き出さなければいけない)
- 税負担を考慮しつつ益出し・損出しを行う
- 非課税口座の種類や課税口座ごとに保有する資産を選別する
- 寄付のやり方で控除額等が変わる
日本でも一般的なもの(2、4)、米国ならではのもの(1、3、6)もあるが、少し気になるのは5だろうか。
「投資対象によって投資に使う口座の有利・不利があることがある。
例えば、税効果の高い投資には、通常の課税口座が最適かもしれない。
401kやIRAには短期保有を予定する資産がよい傾向があり、Roth IRAは最も長い期間にわたって最も増価すると予想される資産に向いている。」
日本人には関係ないが、簡単に解説すると、「401kやIRA」では拠出時に所得控除(つまり非課税)、引出時に課税。
「Roth IRA」は課税後の所得から拠出されるが、引出時は非課税である。
つまり、米制度においては
- そもそも税負担の小さな投資は通常の課税口座でやりなさい。
- それ以外の短い投資は《拠出時非課税、引出時課税》を選びなさい。
- 長くリターンの大きな投資は《拠出時課税、引出時非課税》を選びなさい。
強いて日本に当てはめると、2つ目がiDeCo、3つ目がNISAだろうか。
あくまで相対的な話だが、《短めの投資にiDeCoを》と言われれば、意外と思う反面、よく考えるとそんな気もする。
アメリカ人はよく勉強しているなと思わされるところだ。
