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ジェレミー・グランサムが説く持続可能な世界の不都合な前提
2024年3月20日

GMO共同創業者ジェレミー・グランサム氏が『持続性か破滅か』と題する論文を公表している。
同氏はバリュー投資家のほか、バブルの研究家、そして環境ベンチャーキャピタリストの顔を持つ。
今回の論文、世間で安売りされているSDGsやESGとは異なり、かなり現実的な目線で書かれている。


現在の環境破壊の速度で積み上がるとすれば、私たちの安全マージンは小さい。
私たちに残された問題可決の時間はおよそ100-150年だろう:
私たちはその間に限界なく持続可能な経済を確立しなければならない。

グランサム氏が自社サイトで書いている。
同氏が言う「100-150年」を長いと見るか短いと見るかは人それぞれだろう。

1972年に発刊されたローマクラブ『成長の限界』では100年以内の「限界」が予想されていた。
この本(シミュレーションなども示されている)を読む限り、事態はもっと深刻との印象を受けたものだ。
ただし、人類が問題に対処したり、技術革新があれば「限界」は後倒しになるとも述べられており、実際そうなったようだ。
1970年代、世界の人口は30-40億人をうかがう状況で、もはや支えきれないのではと大騒ぎしていた。
今や世界人口は80億人を超え、30年後には100億人が推計されているらしい。

人類が生き方を変えれば、1人あたりの環境負荷は減るかもしれないが、それでもやはり人類のヘッドカウントは全体の環境負荷の大きなドライバーだ。
人類はイナゴの大群よりたち悪く地球を食いつぶしている、というのは言い過ぎだろうか。
こうした状況に対して、私たちが心地よく論じている環境対策は十分だろうか。
あまりにも幸福な未来を語ってはいないのか。

グランサム氏の主張ははるかに悲観的かつ現実的だ。
同氏は今後いくつか詳しい論文を書く予定で、そこで主張する内容を予告している。

私はまた、大きな人口減少なくして、私たちが持続可能な経済システム、つまり、限界なく持続可能でさらに人類のほとんどがよい生活を送れるような経済システムに到達することはないと主張する。
私は、リーダーシップと良識によってそうした経済システムに至る確率はほとんどないか、ないと信じている。
もっと小さな人口ならありうる。

現在の世界人口を前提とすれば、地球の環境問題は解決しえないとの現実論だ。
こうした考えからすれば、人口減少とは「予期せぬ救い」となる。
「今後数世代で大幅な人口減少が起これば、直面する生存リスクに対処できる確率をはるかに大きくできる」と主張されている。

グランサム氏が望みをかけている人口減少は、日ごろ私たちが問題視してきた人口動態の悪化、人口オーナスに直結する現象だ。
つまり、現状で普通に考える限り「存続リスクに対処」するには経済を損なう危険を冒す必要がありそうだ。
グランサム氏は、痛みを軽減するために「ゴルディロックス・スピード」が重要と書いている。

私の主張の主題は、GDP実績値が少しマイナスだろうがプラスだろうがたいした問題ではないということだ。
概していえば、GDP実績は今世紀中、労働力が縮小するにつれ横ばいから緩やかな減少へと変化するだろう。
・・・
私たちの社会・経済は、量的でなく質的な改善に投資し重きをおくやり方を学ばなければならない。
その間、GDP以外の、成功を測るもっと有意な物差しが開発されることを望みたい。
GDPは現在QOLというよりコストの物差しでしかない。

GDPでなくより幸福を測る目安を持ち社会・経済を運営すべきとの主張だ。
こうした《正論》はこれまでも多くの人が主張してきたが、現実を言えばGDP信仰は根強い。
1つには他のコンセンサスを得られる物差しの開発が難しいのだろうし、1つには量を求めることで利益を得る人が多いこともあろう。

グランサム氏は最近度々日本を推している
一因はガバナンス面のようだが、日本が人口減少に順応しようとしている点もあるようだ。
日本は先に難題への対処を始め、他国がこれから苦しむならば、日本の方がましかもしれないという考えなのだろう。


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