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貯蓄が増えV字回復にはならない:リチャード・クー
2020年6月21日

野村総研のリチャード・クー氏が、再始動を始めた米経済の回復の道筋について予想している。


「(バブル後)バランスシート不況の概念を理解しない多くの人たちは言い続けた:
『日本は何か本当に愚かなことをしているか、または金融政策が足りないのだ。』
こうした批判が日本に投げかけられたが、それは間違いだ。
日本がやったことはほとんど正しかったが、バブルが大きすぎたんだ。」

クー氏がThe New Yorkerのインタビューで、日本が1990年以降に苦しんだバランスシート不況に対する無理解を説明した。
バランスシート不況とは、バブル崩壊など危機の後に、民間セクターがデレバレッジのために借金を返済し貯蓄を増やすために、民間需要が減退し、不況に落ち込むこと。
日本の1980年代終わりのバブルでは、あまりにも大きなバブルが崩壊したために、このバランスシート不況が発生した。
特に借金を用いた不動産投資等の失敗から、企業も家計も急激なデレバレッジを迫られたのである。
それは個々の経済主体からすれば正しい判断でしかなかったが、経済全体としてみれば合成の誤謬であった。

クー氏はバブル後の日本の政策対応は間違っていなかったと擁護する。

日本のGDPはバブルのピークの頃を下回ることがなかった。
つまり、日本はかなりうまくやったことになる。
もしも日本がこれら政策をとっていなければ、もっと悪くなっていたはずだ。

民間が合成の誤謬の中で支出をしないから政府が支出をした。
(もちろん金融政策は程度の起伏こそあれ常に緩和的だった。)
だからGDPが減らなかった。
(民間需要だけで見てもほぼ水面上にあった。)
これをもって、クー氏は日本の政策が正しかったと主張しているのだ。

国民生活を支えたのだから、功績があったのは間違いない。
ただし、政策にはコストもともなうから、総体での評価には議論があろう。

米国の一般誌がクー氏にインタビューした理由は明らかだ。
米国は日本化するのか? 米国はコロナ・ショックからいつものように立ち直れるのか? を聞きたいのだ。
つまり、米国にバランスシート不況は来るのかだ。

「今回は基本的にバランスシートは傷んでおらず、資本ストックも無事だ。
しかし、ウィルスによる外因性のショックにより、人々は動くことができない。
だから、ワクチンが出来たり、何か正しいことができれば、感染数をゼロにでき、そうすれば元の世界に戻れるだろう。」

「元の世界に戻れる」と言いながら、クー氏はV字回復を予想しない。
ウィルス感染がゼロになるまで、以前の行動様式に戻すのをためらう人が多くいるだろうからだ。
一方で、多くの国や地域が経済の停止を許容できず、感染がゼロにならないうちにロックダウンを解き、経済を再始動している。
クー氏は、感染リスクが残る中での再始動がバランスシート不況に似た状況を引き起こす可能性を指摘する。

一たび経済が回復モードになりみんなが所得を得るようになれば、多くの企業・個人が第2波に備えて貯蓄を増やすだろう。
しかし、みんな一緒に貯蓄を増やそうとすれば、経済が弱くなってしまう。
この場合、経済は、SARS後のようなV字回復とはならないだろう。


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