海外経済

静かなインフレと賃率スパイラルナラティブ:ロバート・シラー

ロバート・シラー教授が、インフレにかかわるナラティブを紹介し、インフレは再び起こりうると警告している。


あなたや私のような人はインフレの話をするが、国民はあまり意識していない。
誰も心配しないから、私は「静かなインフレ」と呼んでいる。
それが起こった時、顕在化し、変化が起こるのだろう。

シラー教授がダブルライン・キャピタル主催の座談会(2月25日)で、インフレにまつわるナラティブについて話している。
ファンダメンタルズでインフレ要因がかつてなく増えているのに、インフレが来るとのナラティブが必ずしも広まらない。

「あまり意識していない」、「誰も心配しない」との指摘は、市場参加者からすると奇異に感じるかもしれない。
しかし、よくよく考えると、みんな自分の生活にインフレが戻るのを現実に感じ取っているわけではない。
市場参加者がヒシヒシと意識するのはもっぱら期待インフレ率の上昇であって、実績のインフレが不快なほど高まっているわけではない。
ならば、一般の市民がインフレを強く意識していないというのもそのとおりなのかもしれない。

それは、日本人でも同じこと。
米国でインフレ率が上昇する可能性があると考えても、日本ではディスインフレが続くと考える人が多い。
確かに、米国の方が基調的なインフレは高いが、だから日本ではインフレが二度と起こらないという話でもないのかもしれない。
ただ、日米問わず、多くの人の記憶からインフレが消えかけている。
あるいは、生まれてこのかたインフレを経験したことのない人たちが増えている。

シラー教授は、インフレに関連するナラティブをもう1つ紹介した。
今はフェードアウトしているナラティブだ。

私の著書『Narrative Economics』で書いた、インフレの一因を労働組合のせいにする賃率スパイラル・ナラティブだ。
この考えでは、労働組合が物価上昇に追いつくために賃金上昇を要求すると、生産者は賃金を払うために物価を上げ多くの代金を受け取らなければならなくなる。
それが繰り返す。・・・
労働運動の現実を考えると、これは資本主義の致命的欠陥であるように思える。

ほどほどのインフレは経済主体、特に企業部門にとって望ましいものとされている。
しかし、インフレが昂進すると、企業にとっても不快なものになっていく。
そこで、ターゲットにされるのが労働組合であり、最終的には労働者だ。
ディスインフレの中で、このナラティブはなりを潜めているが、仮にインフレが昂進すれば、復活しかねない。
これが、社会における対立の関係を(おそらく労働者に不利な方向に)変化させるのだろう。

ニューケインジアンによれば、インフレとはインフレ期待によって強い影響を受ける。
日本はこの点バックワード・ルッキングだが、米国はフォワード・ルッキングらしい。
そうだとすれば、インフレ昂進のナラティブがパンデミックとなれば、インフレ昂進が現実のものとなる可能性は高まる。

1970年代に、ギャラップだと思うが、行われた調査で、当時の国の最重要課題は何かと問われ、人々が答えたのはインフレだった。
今はほど遠い。
たいして気にしてもいない。
政策のルールである2%物価目標について、そこに達してはいないが十分に近いのに、もはやみんなインフレに注目していない。
インフレは再び起こりえ、そのナラティブは復活しうるし、そうなれば再び困難な状況をもたらすだろう。


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